最高のパフォーマンスを発揮するためには、それを叶えるカラダが必要であり、カラダを作るために食事が必要です。つまり、体力や競技力向上にはトレーニングだけではなく、適切な栄養摂取の実践は必須。新しい年を迎えた今こそ食事計画の1年間の流れを学び、「結果を出すカラダ」を目指しましょう。
併せて読みたい!他の期分け栄養記事もCheck!!
「春の試合期編:カラダを維持する、整える」
「再強化期編:再びカラダを鍛え上げる」
「秋の試合期編:完成したカラダ、最終調整」
「年間計画の総まとめ:年間栄養プロジェクト」
トレーニング計画とスポーツ栄養の関係「ピリオダイゼーション」とは?
スポーツ栄養は、「何を(栄養)」「どれだけ(量)」、「いつ(タイミング)」、「何で(食品、サプリメント)」摂るか、という4つの柱でプランを立てるのが基本。そしてこれらは必ず、ピリオダイゼーションに紐づいています。ピリオダイゼーションとは、長期的なトレーニングを短期的な時期に区切り、それぞれの期間、目的に合ったトレーニングプログラムを行うことで、効率良く、より確実に最終目的を達成するための方法です。
食事もトレーニングの一環です。なぜなら、栄養素は筋肉や血液づくりに必要なだけでなく、集中力を高めるため、筋肉をうまく動かすための脳の神経伝達にも必要。つまり、食事はカラダの土台作りだけでなく、競技力向上にも深く関わっているからです。
ピリオダイゼーションから考える食事の摂り方
栄養の摂取は、トレーニングのピリオダイゼーションに則ることで、練習やトレーニングによって得られる成果を最大化し、よいコンディションを維持することにもつながります。ピリオダイゼーションでは、目標の試合に向けてコンディションを最高・最大にするために、年間のトレーニング計画をいくつかの期分けをして、量、強度、技術面の練習負荷を調整していきます。期間ごとのカラダの状態やトレーニングの内容・目的から、食事のポイントを見ていきましょう。
オフシーズン(移行期):競技から離れて心身ともにしっかり休めよう
オフシーズンのいちばんの目的は、休養を取ることです。前シーズンのケガや疲労のリカバリーに当てながら、心身共にしっかり休めましょう。まずは競技から離れ、友人や家族、パートナーと過ごす時間や趣味の時間を充実させて。
1年間頑張ったご褒美期間。食事もシーズン中、セーブしていた好きなものや甘いデザートも楽しんでOKです。ただし、ハメを外しすぎないよう注意! 体重の増量は試合期のベストから+5%以内(例:70㎏なら±3.5㎏)に留めて。
プレシーズン(準備期): 前後半に分けて年間を戦い抜くカラダを構築
カラダ作りがスタート。前半はウエイトトレーニングや走り込みが多く、土台となる筋力や持久力 の強化にフォーカス。後半は競技・種目の専門性に寄った、実践的な練習・トレーニングに移行します。試合期に近づくほど量よりも強度をアップ。
強化プランに合わせて、栄養の配分を考えます。例えば、筋力強化であればたんぱく質を、持久力強化なら炭水化物、ミネラルをしっかり摂って。また、練習量が増える後半は特にエネルギー量を十分摂ることを意識。スタミナの回復やケガの予防につながります。
インシーズン(試合期): 万全のコンディションを保ち疲労を取り除く
いよいよ試合期に突入。当然、シーズンを通して、如何にしてよいコンディションを維持するかが最重要課題となります。そのためには1 試合終わったらしっかりリカバリーをすることが大切。疲労の蓄積はやがてケガの要因になります。
カラダを研ぎ澄ませていく時期です。栄養バランスや食事のタイミングを考えることで、疲労回復やよいコンディションの維持につなげましょう。また、体組成をしっかりコントロールしていくことも重要です。
準備期に取り組むべき食と栄養5つのアクション
コンディショニングはスタートダッシュが肝心。多くの競技のプレシーズンにあたる1~3月期は1年 間を戦い抜くカラダの土台作りにあたります。プランニングの立て方から具体的な食事の内容まで、 今取り組むべき食事と栄養の5つのアクションとは?
1.前年度のアセスメントを行いカラダ作りの目的と課題を定める
多くの選手は、記録や勝敗だけを重視しがちで、コンディションを振り返ることまでは意外と出来ていません。年間の食事計画は、前年度を振り返ることからスタート。スタミナ切れに悩んだ、当たり負けをする、ケガが多かったなど、肉体的な弱点をあぶりだしましょう。
カラダ作りの課題が具体的に見えてきたら、弱点が改善され、パフォーマンスを上げるためには、どんな強化を計ればよいのかを考えます。すると、例えば「当たり負けをするので体重、筋肉量を増やそう」という具合に、おのずと食事計画のベースが見えてくるのです。
アセスメント項目は前号の記事をcheck!
栄養マネジメントを取り入れてパフォーマンスアップ
2.筋肉はたんぱく質のみでは成らず「バランスのよい食事」を定着
適正な体組成を目指すためには、食事の基本である「主食・主菜・副菜・汁物・果物・乳製品」が揃った食事を意識することが重要です。その理由は、カラダは多くの栄養素が複雑に絡んで初めて作られるから。
例えば筋肉=たんぱく質、と考えがちですが、たんぱく質が筋肉の材料に変わるためには、ビタミン類(C、B群など)や鉄、亜鉛、銅といった微量栄養素も必要。ぜひ、体力的、時間的にも余裕のあるプレシーズン前半に、オフ中に乱れた食生活を正し、バランスのよい食事を習慣化しましょう。
3.カラダの機能面を高める食事で競技モードへスイッチ
プレシーズンはカラダの機能を高め、オフモードでゆるんだカラダを、競技モードに切り替える時期。栄養をきちんと消化・吸収できるカラダに整え、食事から得られる効果を最大化しましょう。キーワードは二つ、「腸内環境」と「血液」です。栄養素は腸で吸収されます。まずは「腸内環境」を整えないと、口からどんなによい食事やサプリメントを摂っても意味がありません。また、筋肉を動かすにも、 持久力を維持するにも酸素が必要。そして、酸素の運搬能力を上げるには「血液」が必要。血液をたっぷり造る食事も意識します。
腸内環境を整える
野菜やきのこ、海藻に含まれる繊維質や、野菜や乳製品などに含まれるオリゴ糖、乳酸菌などを摂 り、腸内環境を整えます。これらはサプリメントやプロテインでは獲りにくい成分なので、食品からしっかり摂りましょう。
貧血を予防する
筋肉に酸素や栄養素を運搬するのは、血液を構成する赤血球。赤血球の寿命は120 日と言われています。シーズン中に貧血にならないよう、鉄、たんぱく質、ビタミンC、亜鉛なども摂るようにしましょう。
4.食事量は練習量で調整。適正な体組織の獲得を目指す
練習量が多いときはご飯の量を増やし、体重が落ちるときは揚げ物や炒め物で脂質を増やすなど、摂取エネルギー量の調整を。ただし、体脂肪を落としたいときも、「主食抜き」はご法度。糖質も筋肉の材料です。主食は減らすのではなく、白米に玄米やもち麦を混ぜる、食パンをライ麦パンにするなど、食物繊維の割合を増やして摂るのがおすすめです。体重(体脂肪)が増えたら「食べる量が増えたものを削る」のが鉄則。多くは脂質と甘いものが増えている傾向にあるので、見直して。
5.「奥歯で噛む」を習慣化 内臓の負担を減らし免疫力をキープ
プレシーズン後半から、疲労度が高まり、内臓も疲れてきます。ですから、食事はよく噛むことを意識。すると、消化不良を起こしにくくなります。また、奥歯で噛みしめるようクセづけると、筋力の発揮にも好影響。競技中のカラダの安定につながります。さらに唾液は噛むという行為によって活発に 分泌。唾液には免疫成分が含まれるため、結果、感染症予防や風邪予防にもつながるのです。
補食を上手に摂ることも、プレシーズンから習慣化したいことのひとつ。本来、練習後は一刻も早く栄養をカラダに入れたいところですが、運動直後は交感神経が優位に働き、消化吸収がうまくいかないタイミングでもあります。そんな時はアミノ酸ゼリー飲料などをうまく活用して。練習前やハーフタイムなど胃もたれの心配な時にもおすすめ。
アトランタ五輪を目指す競泳選手への食事アドバイスをきっかけにスポーツ栄養士へ。現在はジュニアからトップアスリートまで、さまざまなスポーツの栄養サポートに携わる。ロンドンでは競泳、男子柔道の日本代表チームの栄養サポートを担当。
2021年1月15日発行「アスリート・ビジョン#20」掲載/この記事は取材時点での情報です。
併せて読みたい!他の期分け栄養記事もCheck!!
「春の試合期編:カラダを維持する、整える」
「再強化期編:再びカラダを鍛え上げる」
「秋の試合期編:完成したカラダ、最終調整」
「年間計画の総まとめ:年間栄養プロジェクト」