秋の試合期編:年間栄養プロジェクト【栄養のプロに聞いた】

多くの競技がリーグ戦やインカレを迎える秋から冬は、学生アスリートにとって、日々の練習の成果を発揮する集大成の季節です。そのためには、ベストコンディションで毎試合に臨めるか否かがカギとなります。競技や大会によって異なる試合期間やタイミングを想定し、コンディションの波の上げ下げを調整しながら、大事な試合を中心にピークをもっていくことが必要です。秋まで続けてきた栄養管理も振り返り、疲労回復も踏まえながら、高いパフォーマンスを発揮するための食事術を探っていきます。

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秋の食事計画で意識したい3大コンディション

【秋バテ】夏だけではない暑さ対策

実は夏バテの影響が、秋の試合期にドッと現れる選手も少なくありません。近年は10 月頃まで暑い日が続きます。夏の疲れをしっかりとりながら、試合時の体力の消耗や筋肉のダメージをリカバリーする食事を心掛けて。

【体重】試合間近の体重増減は要注意

試合期の体重の増減はパフォーマンスの低下やケガの要因に。秋の試合期は、疲労感や試合のストレスだけでなく残暑も影響し、食欲が落ちて体重が減ってしまう選手が少なくありません。逆に調子が上がらないことで無理な減量に走るケースも。

【メンタル】練習の試合のほか、学生生活も多忙

試合の緊張に加え学生生活も忙しく、心身に大きなストレスがかかります。よいメンタル状態を維持するためには食事からアプローチすることも大事。生活習慣や食べ方で、腸内環境や自律神経を整えていきましょう。

試合期を乗り切る食べ方のコツ

朝食を食べる

生活リズムの乱れを整えるには、朝食をきちんと食べることから始めましょう。体内時計がリセットさ れ、カラダのリズムが整います。朝食の時間を作るためにも、早寝早起きを心掛けて。

よく噛む

何を食べても、体内でうまく消化・吸収されなければ意味がありません。大切なのは、時間をかけて、よく噛んで食べること。「噛む」ことで、消化吸収を促す副交感神経を刺激します。

腸内環境を整える

しっかり栄養が吸収できるよう腸内環境を整えることが重要。免疫力強化だけでなく、脳腸相関でメンタルにも効果あり。

秋の試合期 食のスケジュール

必要な栄養素をベストのタイミングで摂ると、ずるずると試合の疲労を引きずらずにすみます。 続いて具体的な食事プランを見ていきましょう。

CASE1:1日に1試合の場合 [サッカー・ラグビーなど]

試合終了後、食事までの時間があくようなら糖質とたんぱく質を含んだ補食を摂りましょう。食事は消化のよいものをバランスよく、特に試合日に不足しやすいたんぱく質食品や野菜類はしっかり摂りましょう。

試合直後のエネルギー補給がカギ

試合が終わったら、まずは喉をとおりやすいゼリー飲料やドリンクを一口、二口でもよいのでカラダに入れてエネルギーを回復。それからクールダウンに入ったり、次の試合に備えたりしましょう。特に1日に複数回試合がある場合、1回目の試合後の補給が重要です。直後と30分後ではグリコーゲンの回復率が大きく異なります。ここを疎かにすると、2試合、3試合目の回復力が落ちてしまいます。また、試合後の夕食の内容も大切。内臓も疲弊しているので、白米やうどんなど消化のよい主食をしっかり摂り、脂質の少ないたんぱく質をおかずにすると良いでしょう。

CASE2:1日に数試合の場合[陸上競技・競泳など]

1回目の試合が終わった後、すぐにブドウ糖など吸収の速い糖質をチャージし、筋グリコーゲンを 回復させます。次の試合までに時間が空くようならおにぎりやサンドイッチなどの補食や脂肪を抑えた糖質中心の食事を摂り、しっかりグリコーゲンをたくわえます。この時たんぱく質を一緒に摂ると筋グリコーゲンの回復率が高まります。

CASE3:週末試合の場合

週末ごとに試合がある競技のポイントは試合前日~翌日の食事。前日はごはんやうどんなど穀類やイモ類などでんぷん質中心の食事でエネルギーを満タンにします。試合後から翌日までは脂質の多い食事は控え、バランスよくしっかり噛んで食べて胃腸を休め、翌週に備えます。

ベストコンディションをキープするための試合期で注意したい食事法

試合期にありがちな不安や悩みを元に、解決へのヒントをまとめました。これらを参考にシーズン終了まで、好調をキープしていきましょう。

不安だから新しいことを試してみてもいい?

今までの習慣や食事を変えず、普段通りに

試合期に新しいことを試すのは、調子を乱すキッカケになることもあります。思い込みで急な減量を始め、コンディションを崩したり、飲んだことのないエナジードリンクを試合前に飲んで、試合中に心拍数が上がりすぎてしまうケースも。特に食品は自分のカラダとの相性があります。特別なことはせず、規則正しい食生活を普段通り行うことが大切です。

食欲が落ちて、量が食べられない……

食材をうまく選んで栄養UP

心身の疲労が蓄積すると、しっかり食べたい気持ちがあっても、食欲が落ちる場合も。食欲がわかないときは、食材を工夫して栄養素をプラスしてみましょう。油をうまく使って摂取カロリーをアップすればエネルギーも補えます。例えば、サラダにはドレッシングやマヨネーズの他に、オリーブオイ ルや亜麻仁油を使うのもいいでしょう。ヨーグルトにならMCT オイルを足す。他にも、フルーツやスキムミルク、プロテインなどを入れてもいいですね。どうしても食べられない時は、おかゆやスープだけでもお腹に入れましょう。

毎日、栄養バランスまで考えられないよ!?

上手に手抜き、たまにはリフレッシュも

授業に部活にアルバイトにと毎日忙しく暮らしていると、食事の準備さえストレスになることも。そんな時は外食や惣菜などを利用して、楽をしながらバランスよく食べましょう。バランスのよい食事の積み重ねは大切ですが、完璧にこだわりすぎてストレスになるのも問題です。心のゆとりも、大事なコンディショニングのひとつ。たまには好きなものを食べてリフレッシュも。一食程度バランスが崩れても、これまでの努力がすべて台無しになることはありません。

疲労が溜まってくると風邪とかが心配……

腸内環境を整える発酵食品を味方に!

心身ともにストレスがかかりやすい試合期は、免疫力の低下による風邪や不調のリスクも高まります。免疫力の維持には、腸内環境を整えることが重要。腸内環境を改善すれば、栄養もしっかり吸収できますし、メンタルにも効果があると言われています(脳腸相関)。納豆、みそ汁、ぬか漬け、キムチといった発酵食品を積極的に摂りましょう。また肉や魚は、塩麹やしょうゆ麹に漬けて冷蔵庫や冷凍庫に保存。いつでも発酵食品が摂れるうえ、焼くだけ、炒めるだけでメインのおかずの出来上がり。


PERIODIZATION(ピリオダイゼーション)

長期的なトレーニングを短期的な時期に区切り、それぞれの期間、目的に合ったトレーニングプログラムを行うことで、効率よく、より確実に最終目的を達成するための方法。

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柴崎真木さん(管理栄養士)
柴崎真木さん【管理栄養士】
アトランタ五輪を目指す競泳選手への食事アドバイスをきっかけにスポーツ栄養士へ。現在はジュニアからトップアスリートまで、さまざまなスポーツの栄養サポートに携わる。ロンドンでは競泳、男子柔道の日本代表チームの栄養サポートを担当。

※2021年10月15日発行「アスリート・ビジョン#23」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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