試合期編:年間栄養プロジェクト【栄養のプロに聞いた】

4〜5月からシーズンが始まる競技では、春期はコンディションを確認する時期。カラダ作りの弱点に気づき、何をどう食べればよいのかも見直すことが、秋のリーグ戦やインカレのパフォーマンスにもつながります。シーズンをとおして持てる力を発揮できるよう、これまで「何気なく」食べていた物や習慣を見直し、考えてみましょう。

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試合期は疲労回復にフォーカス

秋につながるカラダ作りを!

リーグが始まり、毎週のように試合が続く試合期はカラダを維持する、整えることが第一です。疲れを引きずらない、ケガをしない、風邪をひかないなど、不調のない状態で毎日を迎えるのがベストです。しかしカラダは試合を重ねるごとに、どんどん疲労が蓄積します。そして疲労を引きずると日々の練習の精度や免疫力が下がるため、ケガや風邪をひく原因に。結果、試合でのパフォーマンスも低下します。カラダをよい状態に保つには、試合のたびに素早く疲労回復に努めることが何よりも大切です。そのためには睡眠とともに食生活や食べ方もカギとなります。

カラダの三大栄養素は「糖質」「脂質」「たんぱく質」

カラダ作りに欠かせない三大栄養素「糖質」「脂質」「たんぱく質」。糖質と脂質はカラダを動かすエネルギー源、たんぱく質は20 種類のアミノ酸によって構成されており筋肉や血液の材料となります。糖質は体内に多く蓄えておくことができないため、練習量が多い時はしっかりとる必要があります。減量・増量など体組成の調整時にはこの三大栄養素のとり方が大きく影響しますが、脂質は細胞膜やホルモンの材料にもなるため、減量時にまったくとらないと月経異常やケガの原因につながります。

3食では足りない栄養素とエネルギーは『補食』で補う!

補食という言葉をご存知ですか? 

補食とは簡単にいうと“ 栄養のある間食”。食間に食べて、3 食では足りない栄養素やエネルギーを補います。試合日の補食は、試合中にエネルギー切れを起こさないことが第一の目的です。代表的なのはおにぎり、あんぱん、サンドイッチ、バナナ、ア ミノ酸ゼリー飲料。日頃から何を食べると調子がよいのかを試しておくと、試合時も安心です。

自分の状態を客観的にチェック!コンディションを知り・整える4つの習慣

1 体重・体組成の変動に注意!

試合期になると、疲労感に比例して食欲や消化する力が落ち、キロ単位で体重が落ちてしまう選手も少なくありません。体重が落ちている人は、筋肉が減少している恐れがあります。よいコンディションを保つには、年間をとおして、体重の大きな増減がないことが望ましいのです。

2 体重の増減が続いたら運動量・食事量の見直しを

体重の増加・減少がみられたら、練習の量、強度、頻度に合わせて食事量の調整を。体重が増加傾向にある人は、特に嗜好品や脂質の量から見直します。減少傾向にある人の多くは、単純に必要量が摂れていないかもしれません。疲れていても食べやすい食材や味付け、調理方法などを見つけましょう。

3 排便・排尿の状態で脱水症状をチェック

体内の水分が不足すると疲労感もぬけません。特に4月以降は試合期で運動強度が上がるだけでなく、気温も上がり脱水を起こしやすくなります。そこで、トイレに行った際は必ず、尿と便の状態をチェック。尿の色が濃い、便が硬い、排便がスムーズでない場合、脱水を起こしている恐れがあるので要注意。

4 朝食を食べる

午前中から試合がスタートする競技が多いと思います。試合日に朝食をしっかり食べないとエネルギー切れを起こすため、日ごろから朝食を摂る習慣をつけておきましょう。また、朝食を摂ることで、休息モードの副交感神経から活動モードの交感神経が優位に切り替わります。結果、寝ていた脳とカラダにスイッチが入り、午前中の試合から力を発揮できます。

ベストコンディションをキープする試合のための食事計画

コンディションを維持し、試合でパフォーマンスを発揮するための試合前後の食プランを公開。自己流の食事を見直し、疲労を溜めない・引きずらない食事を実践しよう。

学生アスリートあるある!?疲労回復を妨げる悪食行動を見直す

朝食 ×試合翌日は朝食抜きor単品

試合翌日は心身ともに疲れ切っている試合翌日。ついついギリギリまで朝寝坊して、何も食べずに家を飛び出し大学へダッシュ。昨晩から昼まで胃は空っぽの状態……。

昼食 ×ラーメン+チャーハンでガッツリ

内臓も筋肉。つまり試合の翌日は胃腸もヘトヘト。そこへ消化に時間がかかる脂質たっぷりのラーメンやチャーハンは、疲労回復の妨げに。

夕食 ×練習疲れで夜中のコンビニ飯

一人暮らしあるある。疲れて帰宅後、うっかり横になり目覚めれば夜中。仕方なくコンビニ食をサクッと摂り、再び就寝。十分に消化できず、摂れる栄養も少ない。

試合前日~試合3・4時間前

糖質中心で体内にエネルギーチャージ。消化の悪い脂質を避け「動けるカラダ」に!

試合前日から当日の朝食は、エネルギー源である糖質と消化の良いものを中心に食べましょう。また、汁物や果物を摂ることも心掛けて。

食べ方のポイント

☑主食はたっぷり
白米、めん類、もちなど糖質をいつもより少し多めに。

食物繊維はお腹の具合で判断を
食物繊維を摂り過ぎるとガスがたまり、お腹が張る人は、根菜や海藻は控えめに。

食事からも水分を補給
試合での脱水を防ぐため汁物や野菜、果物などを摂って水分をチャージ。

☑おかずは脂質を控える
脂質の多い肉や調理油を控えましょう。また炒め物や揚げ物も避けます。

定食型の食事は試合3,4時間前までに!

いわゆる定食型の食事は、糖質と消化のよいものを中心に試合の3、4時間前までに摂ります。ご 飯をたくさん食べられない人は、肉じゃが、マカロニサラダ、汁物にそうめんを入れるなど、おかず からも糖質を摂る工夫を。口当たりが変わると量も摂りやすくなるので、果物もおすすめ。

© Liza5450 – stock.adobe.com

試合の前後

こまめな糖質補給でスタミナ切れを防止。試合後は「使った栄養」を素早く補給

試合時間が近づくと、緊張や他の試合観戦などで、食べたり飲んだりを忘れがちに。固形物だけでなくゼリー飲料や汁物など、のどごしがよく、食べやすい物からも糖質を補給する工夫をしましょう。

食べ方のポイント

小腹が空いたら脂質の少ない糖質を摂る
試合の2 時間前は固形物で糖質を摂るリミット。小腹が空いたらおにぎり、あんぱん、サンドイッチ、バナナなどから糖質をしっかり摂って、エネルギー切れを防ぎましょう。

胃に優しいゼリー飲料や汁物でエネルギーを注入
試合まで1 時間を切ったら、固形物からゼリー飲料や汁物に切り替えます。 試合間際に飴やチョコレートを摂るのもよいですが、甘みが強いうえ、血糖値が急激に上昇する恐れもあります。まずは普段の練習時からカラダに合ったものを試したうえで、取り入れてください。

☑試合で使った糖質を可能な限り素早くチャージ
試合終了後は、できるだけ早く糖質を摂ると、スムーズな疲労回復につながります。最後の試合が終わった後は固形物で空腹感をやわらげつつ、糖質を補給。

試合後~翌日

使い切った栄養を補給しつつ消耗したカラダの回復に集中!

とにかく消耗し、疲れ切っている試合後から翌日はリカバリータイム。ポイントは2つ。試合で使い切った栄養を中心に摂ること、そして疲れ切ったカラダに優しい食べ物を選ぶことです。試合後の食事からは、たんぱく質、ビタミン・ミネラルも増やしていきます。ただし、筋肉が疲れているときは、内臓も疲れています。試合後から翌日までは消化力が弱っているので、柔らかいもの、脂質の少ないものを選びましょう。

食べ方のポイント

☑翌朝は和定食スタイルに
ベストは脂質が少なく、糖質もしっかり摂れる定食スタイルの和食。疲れて自炊が難しい日はコンビニや牛丼屋などの朝定食を利用しましょう。

☑脂質の少ないたんぱく質を摂る
試合後は内臓も疲れています。たんぱく質は脂質の少ないものを選んで。

☑アルコールは厳禁
アルコールは筋肉の回復を遅らせるので厳禁。試合後の打ち上げも、ここはグッとガマン。

柴崎真木さん(管理栄養士)柴崎真木さん【管理栄養士】
アトランタ五輪を目指す競泳選手への食事アドバイスをきっかけにスポーツ栄養士へ。現在はジュニアからトップアスリートまで、さまざまなスポーツの栄養サポートに携わる。ロンドンでは競泳、男子柔道の日本代表チームの栄養サポートを担当。

※2021年4月15日発行「アスリート・ビジョン#21」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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