早稲田大学・梅林太朗選手「メダルが獲れたらいいや」ではなく「1番」を目指さないとダメ【レスリング】

大きな膝のケガを乗り越え、コロナ禍の生活も前向きにとらえ、チャレンジを続ける早稲田大学4年生の梅林太朗選手。「考えることが好き」と言ってくれた彼が、この先に見えるものは何か?アスリートインタビューの再開を飾るにふさわしく読者に元気を与えてくれる記事をお届けする。

梅林太朗選手プロフィール

早稲田大学 レスリング部  梅林太朗
1998年4 月3 日生まれ。千葉県出身。3 歳からレスリングをはじめ、中高時代をエリートアカデミーで過ごす。攻撃的なレスリングを武器に数多くのタイトルを獲得。早稲田大3年時の2019年2月に前十字靭帯断裂の大怪我を負うが、同年12月の天皇杯で銅メダルを獲得。2024 年パリ大会の金メダルに向けて再起を果たした。

エリートアカデミーで運命的な出会い

―レスリングをはじめたきっかけを教えてください。

3つ上の姉が通っていた幼稚園にレスリング教室があり、そこに通うようになったのがきっかけです。マット運動を中心に楽しくレスリングを習いました。

―中学に上がると、エリートアカデミーに入学します。

まさに練習をするための環境でした。学校から帰ると、すぐに練習。毎日が同じことの繰り返しで、今考えるとすごく恵まれている環境だったと感じます。なおかつ他の競技のトップ選手を間近で見られる。日本代表選手はどうやって食事を摂っているのか。日常生活をどんなふうに過ごしているのか。そういった部分も見られるのはとても新鮮で、人としても競技者としても成長できたと思います。

―特に成長につながった出来事はありますか?

同級生に恵まれていました。レスリングは同期が3 人いるのですが、一人は日本人史上最年少で世界選手権を制した乙黒拓斗選手。もう一人が2019 年の世界ジュニア選手権で優勝した阿部敏弥選手です。レスリングは個人で戦うスポーツですが、当時からチーム意識が強く、いつも刺激を受けていました。

「もうレスリングはやめてやろう」大きな転機になったケガ

―早稲田大学の3年時に大きなケガを負いました。

前十字靭帯の断裂です。『もうレスリングはやめてやろう』と思いました。東京のためにレスリングをやってきて、日本代表に選ばれる自信もあった。悔しかったです。ところが、僕と同じ男子フリースタイル74kg 級の代表に、乙黒拓斗選手の兄である乙黒圭祐選手が選ばれました。本命視されていた選手にプレーオフで勝ち、兄弟での出場 を決めたんです。中学生の頃から乙黒兄弟の努力は見てきたので、とても嬉しかったですね。もしかすると、ケガをした自分にも、頑張ればまたチャンスが来るかもしれない。そう悟った時に、誰よりも早く2024 年のパリを目指そうと思いました。

―復帰までにどれくらいかかったのですか?

2019 年の2 月にケガをして、3 月に手術をしました。そこから約8 カ月はマットに上がれませんでしたが、復帰戦となった11 月の秋季選手権は無失点で優勝することができました。さらに12 月の天皇杯で銅メダルを獲得。本当は優勝を狙っていたのですが、復帰までの道のりを逆算してここまでできたことは、大きな自信につながりました。他の選手にはできないことだと自負しています。

―パリまでの道筋は描けていますか?

完璧に描けています。日本のレスリング界には前例がないのですが、海外を拠点にすることを考えています。その理由は、他の選手と同じことをしていても、勝つことはできないから。さらに、引退後も自分の財産として残ることをしたいとも思っています。誰もやったことがないからこそ、次世代のアスリートの模範となれるように、自分から行 動を起こしてその背中を見せたいと思います。

資格を取得するなど自粛期間を前向きに過ごす

―新型コロナウイルスによる自粛期間中はどのように過ごしていましたか?

アスリートフードマイスターの資格を取りました。パフォーマンスを最大限に発揮するためには、どういう食事が適しているか。スポーツで結果を出すための『食事学』です。もともと試合の1~2 週間前は自分で食事を作っていました。寮の食事は脂っこいものが多く、自分が摂りたい栄養素がなかなか摂れないからです。特に減量期は、自炊が一番融通が効くと感じています 。

―何がモチベーションだったのでしょう。

ケガをしたのが一年前だったので、正直、『また練習できないのか』という気持ちが強くて…。でも、できることをやるしかない。はじめは近くの公園でトレーニングをしたり、ケガの予防としてヨガも始めました。でも、それ以外は『寝る』と『食べる』だけの生活。『こんなことをしていていいのか』という思いになり、そこから本を買って勉強するようになりました。家にはホリエモンの本が5冊もありますよ 。

―カラダづくりはどうしていますか?サプリメントなどは摂りますか?

私にとってサプリメントの位置付けは、減量期に充分な栄養素を摂るためのもの。特に筋肉が落ちないよう、たんぱく質を多めに摂るために活用しています。また、減量期はアミノ酸をほぼ毎日摂っていますね 。

―最後に学生アスリートにアドバイスをお願いします。

目標を設定する時は、『表彰台を狙う』とか『メダルが獲れたらいいや』ではなく『1 番』を目指さないとダメです。その理由は、1 番を目指している人が3 人いる時点で、表彰台を目指している人はすでに4 番に追いやられているから。そのことを大学の4年間で痛感し、だからこそ今、バリでの金メダルを目指しています 。

※「アスリート・ビジョン#19」掲載/この記事は取材を行った2020年9月時点での情報です

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