栄養マネジメントを取り入れてパフォーマンスアップ【栄養のプロに聞いた】


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スポーツに取り組む競技者や部活生にとって、カラダづくりの基本である「栄養マネジメント」について解説します。2020年、長期間の練習自粛により生活が一変し、以前のようなパフォーマンスを発揮できなくなったという学生アスリートも多いはず。しかし、今できることに取り組むかどうかで、後々大きな差が出てきます。栄養もそう。現在の食生活を見直し、正しく改善する「栄養マネジメント」を取り入れてスポーツのパフォーマンスアップに繋げましょう。

栄養マネジメントの目的はパフォーマンス向上

栄養マネジメントという言葉を聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、考え方はいたってシンプル。スポーツにおける「パフォーマンス向上」という大きな目的のために、まずは自分の食生活の現状を知り、改善するための目標と計画を立て、実行するという一連の流れを栄養マネジメントといいます。

何のために栄養マネジメントを行うのか?

目的や問題点、生活環境に応じて栄養戦略を立てることが栄養マネジメントの流れになります。
「たとえば、自粛期間中に体重が増え、パフォーマンスが低下してしまった人がいるとします。この場合、“ 元の体重・体脂肪率に戻せばパフォーマンスが戻る” と考え、まずはカラダの現状を把握するところからスタートします」(柴崎さん)

具体的には、体重・体脂肪率など今のカラダの状態を測定し、自粛前よりもどれぐらい増量してしまったのかを客観的に判断するというもの。
「これを踏まえたうえで次に行うのが、いつまでに、どれぐらい体重・体脂肪率を落とすか、数値で目標を立てること。自粛中の生活を振り返り、どうして太ってしまったのか原因を探ることも栄養マネジメントにおいては重要です。

おやつを食べ過ぎていたのだとしたら、食べる量を2個から1個にする、3日で1回に減らす、というように行動目標を立て実施する。このとき多くみられるのが、最初から無理のある、極端な数値目標を立てることです。『今からダイエットを始めて、1 カ月で10kg 減量!』『好きだったスイーツを一切食べません』といった、無理のある数値、期間、内容を目標にしていては継続できなかったり、正しい成果が得られません」(柴崎さん)。

5つの流れに沿って行う栄養マネジメントの手順

競技における栄養マネジメントには、システム化した手順があります。5つの流れに沿って食事の計画を立て、パフォーマンスアップを目指しましょう。

①アセスメント

目標を立てるために、現時点のカラダの状態を調べること。疲労感はあるか、睡眠はきちんととれているかといった「主観的項目」と、体重・体脂肪・血液状態などを測定して把握する「客観的項目」の2つの視点から分析する。

②目標を立てる

今のカラダの状態をもとに、目標を立てる。いつまでに、なにを、どれくらい、どうしたいか、明確にするほど実行に移しやすい。このとき大切なのが、実現可能性がある目標であるかどうか。「お菓子や揚げ物を全部断つ」といった極端な目標は途中で心が折れてしまうため要注意。

③実施

立てた目標を実行に移す。ここで計画を忠実に実施できればカラダに何かしらの変化が起きるはず。やるべきタスクを書き出して、常に見えるところに置いておくと日々の習慣に取り入れやすい。

④モニタリング

実行に移しながら、経過観察を行うことをモニタリングという。もしも目標に届いていなかった場合、なぜうまくいかなかったのか原因を再度分析し、行動の修正を行う。これを、うまくいくまで繰り返していくことで目標に近づいていく。

⑤評価

「3カ月で体重を2kg 落とす」といった目標を立てた場合、3カ月たったタイミングでどのぐらい減っていたかを確認するのが評価。無事目標をクリアしたら、パフォーマンス向上のために再度アセスメントから行い、レベルアップを図る。

共通アセスメントチェック項目

毎日3食食べる

3食摂っていないとエネルギーや栄養不足になる

主食(ごはん・パンんなど)、主菜(肉魚のおかず)、副菜(野菜のおかず)がそろっている

揃っていることでエネルギーや栄養を過不足なく摂れる

乳製品を食べる

たんぱく質やカルシウム不足を防ぐ

果物を食べる

エネルギーやビタミンC、食物繊維不足を防ぎ、かんきつ類は鉄の吸収率を高める

緑黄色野菜(ほうれん草・小松菜・トマトなど)を食べる

ビタミンや鉄、カルシウムなどのミネラル、食物繊維不足を防ぐ
食物繊維は脂肪の吸収を抑える

海藻類を食べる

ビタミンや鉄、カルシウムなどのミネラル、食物繊維不足を防ぐ
食物繊維は脂肪の吸収を抑える

きのこを食べる

ビタミンや鉄、カルシウムなどのミネラル、食物繊維不足を防ぐ
食物繊維は脂肪の吸収を抑える

睡眠時間がしっかりとれている

睡眠不足は太りやすい、筋肉がつきにくい、ケガをしやすい、疲労が抜けないなどコンディショニングに影響

よく噛んで食べることを意識している

消化不良を起こしやすく、栄養素がしっかり吸収できない
早食いになりやすく食べ過ぎやすい

栄養マネジメントがうまくいかないときは管理栄養士に相談しよう

栄養マネジメントを計画通りに実践していても、結果がついてこないことがあります。そんな時は一人で悩まず、管理栄養士などの専門家に相談しましょう。

「栄養マネジメントがうまくいかない失敗例で多いのが、現状把握(=アセスメント)をきちんと行わないことです。インターネットやSNS、うわさ、口コミから情報を得て、置き換えダイエットや糖質カット、サプリメントに頼るといったことに走りがち。しかし、それらはあくまで対処療法。不調の原因を探り、改善しない限りパフォーマンスアップは望めません。

もしも結果がついてこなかったら、「目標は適切であったか」「期間の設定は間違っていなかったか」
実現可能性が高い目標であったか」と、うまくいかない理由を再アセスメントしましょう。それでも結果が出ず、原因すらわかないという時は専門家からアドバイスを求めるのも手。栄養に関する知識を入れることで、目標達成にいち早く近づくことができるはずです」(柴崎さん)

ある学生アスリートのお悩み

アスリート・ビジョン#19より抜粋掲載

パフォーマンスアップと一口に言っても、パワーをつけたいのか、スタミナをつけたいのか、減量したいのかで栄養の摂り方は変わります。「アスリート・ビジョン」本誌では、悩みやゴールの違う3人を例に、それぞれの状況に合わせた栄養マネジメントを詳しく紹介しています。


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柴崎真木さん(管理栄養士)

柴崎真木さん【管理栄養士】
アトランタ五輪を目指す競泳選手への食事アドバイスをきっかけにスポーツ栄養士へ。現在はジュニアからトップアスリートまで、さまざまなスポーツの栄養サポートに携わる。ロンドンでは競泳、男子柔道の日本代表チームの栄養サポートを担当。

2020年10月10日発行「アスリート・ビジョン#19」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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