心とカラダのコンディショニング術
そのスランプ、「イップス」かも!?

競技はもとより日常生活でも高いパフォーマンスを発揮するには、コンディショニングが大切です。気持ちを整えるメンタルコーチングや睡眠をしっかりとるための快眠術など、アスリート必見の心とカラダのコンディショニング術を紹介します。

最近、スポーツの現場でよく聞かれるようになった「イップス」。何となく意味は分かるけど、詳しくは分からないという方がほとんどだと思います。そこで、スポーツドクターとして多くのアスリートをサポートしている金井貴夫先生にイップスについてお聞きしました。

そのスランプ、「イップス」かも!?

イップスとは、精神的な原因で、思うようなスポーツパフォーマンスが発揮できなくなる症状のことです。論文※ 1では、ミュージシャンジストニア※ 2と同じ運動障害と位置付けられ、「スポーツパフォーマンス中の細かい運動能力の実行に影響を及ぼす精神神経障害」と定義されています。ゴルフやテニス、野球をはじめ、あらゆるスポーツでイップスと同じような病態が見られることが分かっている一方、「そのうち治るさ」と気軽に対処されていることが多く、それが深みにはまって選手生命をあきらめる方も多くいます。

(※1)Clarke P. Int Rev Sport Exerc Psychol. 2015(※2)ジストニア:筋肉の緊張の異常によって様々な不随意運動(自分の意思とは関係なく、体の一部が勝手に動いてしまう)や肢位、姿勢の異常が生じる状態。

原因は?

主な原因は精神的な要素です。プレッシャー、過去の失敗やそれに伴う罰など過去に受けた心のトラウマ、練習のし過ぎなど複合的なケースが多いです。とくに同じ動作の反復練習をやり過ぎると、脳の一部が過剰に反応し、その結果、特定の筋肉が過剰に収縮してイップスを引き起こすと言われています。原因に気づくこと、そして、それらを取り除くことが治療の第一歩につながります。

対処法は?

他の病気と同様に、イップスにも症状の軽い重いがあります。軽症であれば、自分でできるメンタルトレーニングが効果的です。メンタルトレーニングはイメージトレーニングや瞑想、呼吸法、マインドフルネスなど多岐にわたります。また、睡眠、栄養、モチベーション維持も重要なポイントです。自分で行うことが難しい場合には、メンタルコーチに相談してみてください。スポーツメンタルトレーニング指導士※ 3など信頼できる方を頼るようにしましょう。症状が重篤な方や繰り返す方では、「イップス外来」※ 4で行われているような過去のトラウマを処理したり不安や緊張をパワーに変えたりする特殊な精神療法が有効です。もちろん、そうならないように普段からメンタルトレーニングを行うことを強くお勧めします。

(※3)日本スポーツ心理学会認定資格、競技力向上のための心理的スキルを中心にした指導や相談を行う専門家(※4)国立精神・神経医療研究センター 脳神経内科 イップス外来 等

疑うべきポイントは?

  • 特定の動作が特定のシチュエーションにおいてのみ、上手くできなくなってしまう。
  • 信じられないようなミスをしてしまう。さらに、そのミスの頻度が増える。
  • 練習ではできるのに本番になると実力が発揮できない。さらに、そのミスの頻度が増える。
  • 練習ではできるのに本番になると実力が発揮できない。

ミスが起こるときのカラダの動きでわかることもあります。チームメイトや指導者など第三者にミスをしてしまうときのカラダの動作をチェックしてもらうことも有効です。本来できているはずのカラダの動作ができていないなど、特徴的な症状が一つでも見つかればイップスの発症を疑う必要があるかもしれません。

金井貴夫(かない・たかお)さん
公益財団法人東京都保健医療公社 多摩北部医療センター 精神科医長。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 脳神経内科非常勤医師(イップス外来担当)。機能性脳画像研究、心身医学、スポーツ医学、睡眠医学が専門。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本オリンピック委員会医科学強化スタッフ、日本自転車競技連盟ナショナルチームドクターとして、Jリーガーや日本自転車競技ナショナルチームなど多くのアスリートのみならず演奏家などが「本番で実力を発揮できるよう」サポートしている。

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