多くの競技は短いオフを経て、新シーズンを見据えた準備期に突入する。1年を通して戦うカラダの基礎づくりは、春の試合期までに取り組むべき課題の一つ。また、〝技・体〟と同時に大切なのが、自分の課題を見つけて、克服するための目標設定です。自分自身やチームと向き合える絶好のチャンスを利用して、課題解決のための目標設定の方法をスポーツメンタルコーチの鈴木颯人さんに聞きました。
昨シーズンを見直して課題を抽出する
『ジョハリの窓』で自己分析しやるべきことを明確にする
はじめに、昨シーズンを振り返り、メンタル的にどんな課題があったのかをしっかりと洗い出します。その際に活用すると便利なのが、自分自身が見た自己と他者から見た自己の情報を4つに区分して自己を理解する『ジョハリの窓』です。実は人間には見えているようで見えてない部分があります。他人の目線を利用することで効果的にメンタルの課題をあぶり出すことができるのです。
「ジョハリの窓」の活用法
自分と他人の認識のズレを理解したら、ズレている原因を探って他人の認識を受け入れあげましょう。すると、「自分にはそういう一面があるのかもしれない」「他人から◎◎と思われているかもしれない」と思えるようになり、「解放の窓」の領域が拡大。認識のズレが軽減されることでコミュニケーションが円滑になり、対人関係によるストレスも軽減され、新しい自分を見つけることにもつながります。この手法は個人だけではなく、チームでも応用することが可能です。
カラーバス効果は人生を変える?
人は意識した特定の情報に関する、視覚や聴覚などから得られる情報を無意識のうちに取捨選択して積極的に認識します。意識をしないと見ていても情報として脳が処理しません。これを「カラーバス効果」といいますが、人は自分が見たいものに意識を向けているという傾向があるのです。だからこそ、自分では気づかない点を『ジョハリの窓』を利用することで他人の助言で気づき、改善することは、自分の伸びしろ知るうえでもとても重要なポイントといえます。
捉え方次第で短所が長所にもなる
状況に応じて未来を予測
観察からサイクルを回す
「OODAループ」で正しく目標設定
意思決定と実行のプロセスである『OODA(ウーダ)ループ』は、観察、状況判断、意思決定、そして行動という流れになっていますが、個人、チームのスキルアップにも活かすことが可能です。実は、「観察(見ること)」を飛ばしていきなりプランニングに入ってしまう方も多いのが現状です。正しい判断→意思決定→行動につなげるためにも、あまり知りたくない自分にとって不都合な真実も積極的に受け入れることで、その後の伸びしろにも繋がりますし、目標の置き所、努力の仕方も変化します。
意思決定と実行のプロセスである『OODA(ウーダ)ループ』
あと少しで達成できそうな目標を
スキルに合わせて設定する
目標は高すぎても低すぎてもNG
現実的に不可能なほど高い目標は、途中で諦めてしまったり、やる気や自信を失うこともあります。逆に、簡単に到達できてしまうような低い目標も、挑戦する気持ちが起きず、同様の現象が起こりかねません。自分のスキルレベルに応じて挑戦レベルを設定します。たとえば達成する確率が50%くらいの目標、あと少しで到達できそうな目標を立てるとよいでしょう。
ここに注意!
チームに関していえば、たとえば全国大会優勝という目標があるとします。でも、レギュラーではない選手たちにとっては、全国大会優勝といわれても自分には関係ないと思う人もいます。個人とチームの目標が上手くリンクしなければ達成することは難しい。そういった場面で、個人の目標とどうリンクしていくのか、1つの目標に向かっていけるような目標設定を明示してあげることが、指導者の腕の見せ所ともいえます。
1日1日の成長を実感する
達成の期日を曖昧にしない
「◎月◎日までに目標に到達する」など、あらかじめ期日を決めておきましょう。曖昧にすると先延ばしにし、正しく自分を評価しないで目標だけが横にスライドしてしまいます。せっかく能力が高まっていても、常に自分にふさわしい目標設定ができていなければ、チャレンジの度合いが低くて練習がつまらなく感じてしまう場合もあります。1日1日、自分が、そしてチームがどれだけ成長したのかを実感できる日々を積み重ねてください。
小さな成功を見つける金メダルノート
Re-Departure合同会社代表。一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会代表理事。2011年より「心から競技を楽しめる人を増やすこと」を信条に言葉を大切にするスポーツメンタルコーチとして活動を開始。教え子には世界大会優勝、プロ野球ドラフト会議指名、オリピック出場選手も。著書に『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)など8冊出版。
※2023年1月16日発行「アスリート・ビジョン#28」掲載/この記事は取材時点での情報です。