振り返りからのトレーニングメニュー作り【NSCAジャパン監修】

シーズンを迎えるにあたり、何からはじめたらいいのか。そんな 悩みを抱える学生アスリートも多いのではないでしょうか。目標とする大会で最高のパフォーマンスを発揮するためには、計画的なトレーニングが欠かせません。そのために大切なのが「振り返り」。自分のカラダだけでなく、昨シーズンの戦術やスキル、メンタル面も見直し、次に生かします。新年を迎えた今こそ改めて昨シーズンを振り返り、目標達成までの道筋を描いていきましょう。

次シーズンでライバルに差をつける!

強化ポイントを明確にするため、
昨シーズンを振り返る

1年の計画を立てるには、はじめに「どこを強化しないといけないか」を明確にすることが大切です。漠然とした練習にな らないよう、昨シーズンの振り返りをしっかりとしておきましょう。例えば、試合で負けたのなら、何が足りなかったのかを分析することが大切です。個人競技なら、ライバルと比べて自分はどこが劣っていたかを探し出し、対策を立てなければいけません。控え選手であれば、レギュラーになるために何を強化するべきかを考え、弱点を克服する必要があります。その上で、改善点を洗い出し、目的にフォーカスしたトレーニングを行うことで、ライバルに差をつけられるのです。

フィジカル測定をカラダづくりの指標にする

皆さんは、自分の強みや弱点を正確に把握できていますか?「持久力に自信があったけど、最近はスピードもついてきた」「ポジションの特性を考えたら、もっとパワーをつけないといけない」。そんなことを考えている人は、フィジカル測定をしておくと便利です。右の表は、ストレングス&コンディショニングでよく使わ れるもの。フィジカル測定はカラダづくりの指標になり、目標達成までの進捗を把握しやすくしてくれます。

ケガ予防をすればチーム力がアップする

いつどんなケガをしたのかを振り返ることも大事です。例えば、チームスポーツの場合、ケガ人が多いと監督がメンバーを選ぶときの選択肢も限られてしまいます。逆にケガ人が少ないと、選択肢が増えてチーム力も上がります。一口にケガといっても、防げるケースとそうでないケースがあり、肉離れなどの場合は、対策を講じることである程度は防げます。強度が高い練習をする前に、入念にウォーミングアップをするのも一つの方法。最近は、プリハブ(プレハビリテーションの略)と呼ばれるケガ予防のためのプログラムもあるので、積極的に 取り入れてみましょう。

モチベーションが下がった原因を考察する

長いシーズン中であれば、チームとして気持ちが少し緩くなっている時期もあるものです。メンタルを振り返り、どうしてモチベーションが下がったのかを客観的に考察してみましょう。もしかしたら、ケガ人が多かったことがモチベーション低下の原因かもしれません。チームとしてのまとまりがないと感じたら、チームビルディングをやってみるのも一つ。あるいは、ミーティングを増やすことで、チームの結束力が強まるケースもあります。
能力が高い選手がそろっていれば勝てるというわけではなく、チーム力を上げていくためにはそうしたメンタルの振り返りも必要不可欠といえるでしょう。

パフォーマンスピラミッドをカラダづくりに生かす

パフォーマンスピラミッドとは、理想とするトレーニングの順番を三段階で表したものです。最下層が「ムーブメント(機能的動作)」で、ピラミッドの土台になる部分。ここではスタビリティ(安定性)やモビリティ(可動性)が重要で、トレーニングによって機能的なカラダをつくります。二段目に位置するのが「パフォーマンス」で、パワーやスピード、アジリティなどがこれに含まれます。
最上段にくるのが「スキル」。野球でいうなら「バッティング」や「ピッチング」、バレーボールなら「スパイク」や「レシーブ」を指します。つまり、こうしたスキルを最大限に生かすには、ムーブメント、パフォーマンスといった下の層から段階を踏んでトレーニングをしていくことが重要といえます。

スポーツにおけるパフォーマンス向上の考え方。パフォーマ
ンスピラミッドのバランスを安定させることで技術練習の質
の向上やケガ予防にもつなげていくことができます。

オリジナルのトレーニングメニューを作成する

昨シーズンの振り返りから洗い出した課題をもとに、どうやってトレーニングメニューを作成すればいいかを具体的に説明していきます。効率のいいトレーニングをするためには、計画的に進めていくことが何よりも大事。トレーニングの目的に関連する最大反復回数を知っておくことも重要です。もちろん、過度なトレーニングはケガにつながることも。自分のカラダとしっかり向き合い、最大限に効果を発揮するトレーニングメニューを作成してください。

まずは春までのスケジュールを決める

昨シーズンの振り返りによって課題を洗い出したら、春までのトレーニング計画を立てましょう。意識するのは、どこを強化するかを判断した上で、トレーニングの内容を決めること。瞬発力を伸ばしたいなら、瞬発系のトレーニングを増やす。上半身が弱いのなら、上半身の種目を多くします。ここで紹介している計画表は年間で使用するものですが、実際に組み立てるスケジュールは春まででもかまいません。大学の行事があれば、それも書き込んでおきます。やるべきことを明確に記すことで、モチベーションが維持できます。

★「トレーニング計画表」の記入方法は過去記事をチェック!
年間トレーニング計画を立てて効率よく鍛えよう

目的によって回数×セットを変える

強化する目的や狙いによって、エクササイズの回数やレスト(休憩時間)は変わります。例えば、同じベンチプレスでも、筋力向上を目的とする場合は5回×4セットが理想ですが、筋肥大を目的とする場合は10回×4セットで行います。ポイントは、この範囲内であげられる重量を使ってトレーニングを行うこと。レストにも違いがあり、ベンチプレスなら筋力向上が目的の場合は120秒以内、筋肥大を目的とする場合は60秒以内で行います。
上の表を参考に、エクササイズの回数とレストを決めてください。効率的にトレーニングを行えば、成果がより明確に表れます。

課題と目的を明確にしてメニューを決める

プログラムフォーマット(NSCAジャパン監修)

学生アスリート向けに、トレーニング内容と、それを行った際の重さや回数などを記録するプログラム表をダウンロードすることができます。

実際にトレーニングメニューを作成していきましょう。2人の学生アスリートを例に挙げ、それぞれの課題と目的に応じたメニューを作成しました。期間は約3カ月で、「筋肥大期(筋持久力/筋肥大期)」「筋力期」「パワー期(パワー持久力期)」の順に行います。もちろん、ここに記載したメニューはあくまでも一例で、2人と同じことをやったからといって、全ての人に同じ効果が出るとは限りません。大事なのは、昨シーズンの課題を振り返り、どこを強化するのかを明確にすることです。オリジナルのトレーニングメニューを作成する上で、参考資料として使用してください。

サッカー部 (男性/大学1年生)

●練習:週6日、3時間程度(土日は2部練もある)
●大学に入学して以来、上級生とのフィジカルの差を実感するようになった。
春までにフィジカルを強化したいと考えている。

陸上部[中距離] (女性/大学3年生)

●練習:週6日、3時間程度(土日は2部練もある)
●スピードを強化して800m走のタイムを伸ばしたい。

吉田直人さん
CSCS、NSCA-CPT、NSCAジャパンマスターコーチ。育成年代からプロ選手まであらゆる競技のアスリートを指導。ジャパンラグビートップリーグのHonda HEAT で5 年間、ヘッドS&Cコーチとして従事。

※2023年1月16日発行「アスリート・ビジョン#28」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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