心とカラダのコンディショニング術
メンタルは鍛えられるのか?
大切な試合に臨むためには心にも目を向ける

競技はもとより日常生活でも高いパフォーマンスを発揮するには、コンディショニングが大切です。気持ちを整えるメンタルコーチングや睡眠をしっかりとるための快眠術など、アスリート必見の心とカラダのコンディショニング術を紹介します。

メンタルは鍛えられるのか?
大切な試合に臨むためには心にも目を向ける

インカレやリーグ戦など大切な試合で実力を発揮するためには、カラダだけでなく心にも目を向ける必要があります。どうすれば本番で実力が発揮できるようになるのか、スポーツドクターとして多くのアスリートをサポートしている金井貴夫先生にお聞きしました。

メンタルは誰でも強くなれる

「メンタルが弱い」はマイナスの自己暗示・単なる思い込み

私はこれまでプロ選手やオリンピック選手などのトップアスリートから小学生~大学生のアマチュアまで多くの選手と接してきました。そこで、気づいたことがあります。本当にメンタルが弱い選手は、自分が「メンタルが弱いこと」を認めないのです。そういった選手は、過度な練習やゲン担ぎ、道具を変えるなど見当違いの方向に進んでいく傾向にあります。

一方、トップアスリートの多くは、「自分はメンタルが強いとよく言われますが、実は弱いのです。メンタルが弱いことを知っているから、しっかり練習し、イメージトレーニングをして本番では『自分は誰よりも強い』と思い込むようにしているのです」と言います。 逆説的ですが、「メンタルが弱い」と思い込んでいる人は、本当はメンタルが強い人であり、伸びしろがたくさんある人なのです。しかし、そこに気づかなければメンタルトレーニングの必要性を自覚できません。

メンタルトレーニングは全てのアスリートにとって必要なものであり、また、適切なメンタルトレーニングによって、あらゆる選手が「本番で実力を発揮できる」のみならず、「日々の練習から目標に向かって意欲的に取り組む」ようになります。これはスポーツ選手のみならず、演奏家や役者、会議や講演での発表者などあらゆるパフォーマーにも当てはまることです。

また、「メンタルが弱い」と自ら思い込んでいたり、他人から指摘されたことがある方も、「自分は強い」「自分は最高だ」「今日も絶好調だ」と常に自信に満ち溢れた状態になります。そして、練習でできることは本番でもできるようになっていきます。

メンタルとカラダの関係性

呼吸で自律神経とメンタルをコントロール

本番で実力が発揮できる状況を医学的に説明すると、緊張しすぎずリラックスしすぎず適度な緊張感を維持した状態ということになります。この状態は平常心、無の状態、フロー、ゾーンとも呼び、カラダの調子を整える働きをコントロールする自律神経と密接に関わっています。

自律神経には交感神経と副交感神経があり、この2つの神経のバランスがとれていると、適度な緊張感を維持することができるのです。リラックスしているときの脳波は、12〜13 Hzのα波が出ており、ゾーンの状態に入っているときには、それよりも少し周波数の速い、12〜15 HzのSMR(Sensory Motor Rhythm)波が出ています。メンタルトレーニングにおいて基本となるのが呼吸法です。呼吸法を日常的に鍛錬することによって、メンタルをコントロールすることができます。

メンタルは鍛えることができる!

メンタルトレーニングで集中力アップ

「メンタルトレーニング」という言葉が示すように、メンタルは筋肉と同様に鍛えることができます。例えば本番前、口角を上げてスマイルを作るだけでも、気持ちが前向きになり集中力がアップします。表情、姿勢、歩き方、そして、呼吸といった筋肉の動きを「自信あふれる幸せな状態」にすると速やかに、感情状態も「自信あふれる幸せな状態」になります。

これは単純な事実で、パワフルかつ即効性があるにもかかわらず、これを意識的に行っている選手にお目にかかることは極めて稀です。よって、これを実践するだけで、人より抜きんでることができます。是非、これを読みながらすぐその場で実践して体感してみてください。

また、メンタルトレーニングは、イメージトレーニングや瞑想、マインドフルネス、呼吸法など多岐にわたり、自分に合った方法を取り入れることで、本番で実力が発揮できるようになります。

メンタルをコントロールする3つのワザ

呼吸法

「腹式呼吸」は、丹田呼吸とも呼ばれ、主に集中、あるいは、リラックスしたいときに行う呼吸法です。その他体幹を鍛えたり、試合や競技の直前に行ったりする「腹圧呼吸」もあります。

この腹圧呼吸は「緊張をパワーに変える」ことができます。横隔膜が「膜」ではなく筋肉であり、主呼吸筋かつ体幹(コア)の筋肉であることは意外に知られていませんが、横隔膜を呼吸筋トレーニング用デバイスやピラティスによって鍛錬することも極めて有効です。

イメージトレーニング

イメージトレーニングは、目的に応じて「外的イメージ法」と「内的イメージ法」を使い分けます。例えば、テニスの大坂なおみ選手のようなストロークを打ちたい場合。動作の基本を身につけるには、大坂選手の映像を見てその全体像をイメージする外的イメージ法が効果的です。

しかし、脳科学研究の最新知見では、理想のフォームにより近づくためには、内的イメージ法の方がより重要であるとされています。内的イメージ法では、実際に大坂選手になりきって、そこから見える光景を想像・イメージしてカラダを動かしてみます。

その両者を繰り返し、内的イメージ法で実際にカラダを動かしている時に、誰かにビデオ撮影をお願いして、後からそれを見返して、「外的イメージ法」でイメージしていた動作との差異をフィードバックし、さらに外的イメージ法を強化して再度内的イメージ法を行う、といった作業を繰り返すと、どんどん理想の動作・フォームに近づいていきます。

瞑想・マインドフルネス

瞑想とは心を落ち着かせて無になることです。やり方はたくさんありますが、こうしなければいけないという方法はありません。初心者は「瞑想CD」などの音楽やスマートフォンのアプリなどで誘導してもらうとやりやすいです。できるだけ毎日寝る前に行うと効果的です。

最近では、「今、この瞬間に意識を向ける」マインドフルネスが、集中力向上のみならず、心身の色々な領域での効果が科学的に示されており、実践しやすくお勧めです。いずれも、アスリートの皆さんが、「実践してみてパフォーマンスだけでなく人生が変わった」と口々に言います。

さらに瞑想、マインドフルネスや呼吸法を行いながら「Lucky! Happy! Thanks!」を唱えるとより効果的です。以下のような思いを込めて、できたら口に出して唱えてみてください。

Lucky:自分はついている、幸運だ、持っている
Happy:この場に立つことができて幸せだ、楽しい、ワクワクする
Thanks:今まで支えてきてくれた人たちにありがとう

金井貴夫(かない・たかお)さん
公益財団法人東京都保健医療公社 多摩北部医療センター 精神科医長。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 脳神経内科非常勤医師(イップス外来担当)。機能性脳画像研究、心身医学、スポーツ医学、睡眠医学が専門。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本オリンピック委員会医科学強化スタッフ、日本自転車競技連盟ナショナルチームドクターとして、Jリーガーや日本自転車競技ナショナルチームなど多くのアスリートのみならず演奏家などが「本番で実力を発揮できるよう」サポートしている。

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