自粛解除後「リスタート」に必要なメンタル&ストレスマネジメント

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新型コロナウイルスによる大会中止、部活動の自粛は、学生アスリートの心理面にも大きな影響を及ぼしています。学生たちはどんな悩みを抱えているのか。そして、心を一定に保つ対処法はあるのでしょうか。日本代表やプロチームでメンタルトレーニング指導にも携わる土屋裕睦先生に話を聞きました。

長引く自粛生活が与えるストレス

各大学は部活動の活動自粛を呼びかけました。こうした状況の下、多くの学生は自分たちが大切にしてきた目標を喪失してしまったことで気持ち的に落ち込んだり、頭が真っ白になるという状態に陥りました。また、なかには他人に対して攻撃的になるといった行動が見らることも。人間はそうした状況に適応しようと努力(抵抗)するのですが、その時期が長くなり、別のストレスを抱えてしまうと、さらに激しく落ち込む危険性があります。

たとえば、新型コロナウイルスの影響で自粛生活を強いられ、様々なストレスを抱えながらも頑張っているなかで、SNS や家族間のトラブルがあるとそれが引き金となり、がっくりと落ち込んでしまうケースがあります。
  また、ストレスは、生物学的要素(身体、遺伝、性別、健康、疾患、体質)と心理学的要素(認知、感情、信念、思考、態度、性格)、社会学的要素(家族、組織、仲間、競技、環境、文化)の掛け算でできており個人差が大きいものです。

ストレスは本人が気づいていないことも多く、周囲は「よく頑張っている」と見ていても実は精神的に満身創痍ということも。本人の気づきも大切ですが、周りも注意してあげることが必要です。

ストレスが生じるプロセス

ストレスへの適応状態に応じて、大きく3期に分けられます。警告反応期は、カラダが緊急反応する最初の時期です。ショックを受けてストレスを感じ、それが心身に各種の症状を起こします。そこから反ショック相に移ると、ショックに対する防御の反応を見せてはじめ、抵抗期に入ります。ストレスと抵抗力とがバランスをとり、防衛反応が完成(再適応)。抵抗期が長く続くと、適応反応を維持しきれなくなり、疲はい(消耗)します。

出典:ハンス・セリエのGeneral Adaptation Syndrome(汎適応症候群)

①警告反応期

新型コロナ禍、感染不安、競技活動自粛、生活環境の変化、情報不足または過多、見通しのなさ、不安感

②抵抗期

ストレスマネジメント:対処法の吟味、目標設定、ソーシャルサポートの活用、新環境の適応

③疲はい期

ストレス状態の長期化、大会中止等新たなストレス、ストレス対処の失敗、心身の不調、燃え尽き症候群

ストレスマネジメントの4段階

1 心身のストレス反応への気づき

ストレスを抱える方のカウンセリングで最初に行うのが、アセスメント(ストレス状態の判定)。ストレス症候群に陥らないために、今、自分はどのような心身の状態にあるのか、自らの行動を振り返り、気づきを高めることが重要です(以下はサンプル)。

出典:橋本・徳永・金崎作成の「精神健康度パターン診断検査」(MHP1)
調査方法を紹介するため、出版元より特別に許可を得て項目の一部を提示しています。
実際に受検する際は、トーヨーフィジカル者(092-522-2922)より検査用紙を入手してください。
精神健康度の検査方法
ストレス得点:①~④のYesの数⇒(    )点
いきがい得点:⑤~⑧のYesの数⇒(    )点

あなたの精神健康度のパターンは?

例)ストレス得点:①~④のYesの数=0点
  いきがい得点:⑤~⑧のYesの数=4点
上記であれば、下記の数のように「はつらつ型」と判断されます。

注意:上記はMHPの判定図をモデル化して紹介したものです。実際の検査用紙では、40項目4件法で判定しますので、受検したい方は大学の学生相談室などで相談すると良いでしょう。
2 心身のリラクセーション

漸進的筋弛緩法、呼吸法など。たとえば、自分がリラックスするときやほっとする時間(半身浴でのんびりや好きな音楽を聴く)を増やし、その行動を積極的に取り入れてみてください。

3 ストレス対処法の吟味

自分のストレスを少しほぐせたら、自分がなにか困ったことに直面したとき、どのような対処行動を行うのかを点検。実際の問題解決を目指す「問題焦点型」、自分の気持ちに折り合いをつける「情動焦点型」なのかを見極めましょう。

4 ストレス過程の振り返り

コロナ禍での困難(活動自粛、大会中止)に対処するために、どのような取り組みをしたか? どんな挑戦が有効だったか? 何か、新しい発見はあったか? ストレス過程を振り返ることで、新しい目標が見つかることもあります。

モチベーションの維持と管理

新型コロナウイルスの影響がもたらす社会の変化、新たな日常に対応が求められる現在、スポーツ界でも新しい環境への適応が求められています。コロナ禍において、スポーツは平和な社会情勢の中でなければできないことを痛感したはずです。また、誰かの役に立つことで、目標と目的の違いに気づいたという人も多いことでしょう。周囲の人と助け合いながら日々を過ごしたことで、スポーツができることそのものや周りへの感謝を噛みしめるとともに、自分が歩んで道のりを振り返る時間を通して、新しい生活様式にも馴染じみ、適応していくことが大切です。

「ピンチこそチャンス」という言葉があります。うまくいかないのであれば自分が変わらないといけない。まさに、今こそ自分自身が成長できる時期ともいえるのです。

競技再開に向けて

カラダを作り直し、リスタートする時期はモチベーションが上がりすぎてケガのリスクも高くなります。焦る気持ちを抑え、復帰に向け、やるべきことを1つずつクリアにしていくことが必要です。大事な ことは自分の努力や課題にフォーカスすることです。「◎◎さんができるんだから私もやろう」と誰かと競い合う「自我志向」ではなく、昨日の自分を超えていく「課題志向」で取り組んでいきましょう。

※2020年7月10日発行「アスリート・ビジョン#18」を抜粋掲載/この記事は取材時点での情報です。

監修 土屋裕睦先生
大阪体育大学大学院教授、学長補佐。博士(体育科学)、スポーツメンタルトレーニング上級指導士、 公認心理師。日本スポーツ心理学会理事・資格委員長を経て現在は副会長。日本オリンピック委員会アントラージュ部会員・科学サポート部門員。大学に設置されたスポーツカウンセリングルームにてカウンセラーのほか、日本代表チームやプロスポーツチームにてメンタルトレーニング指導に携わる 。
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