ポテンシャルを引き出す パフォーマンスアップのためのトレーニング ⑨回旋動作での力発揮 ~投げるためのビルドアップトレーニング~

どんなスポーツをやるにしても、パフォーマンスやポテンシャルを引き出すために必要なカラダの動きがあります。効率的にカラダを鍛えられるトレーニングを帝京平成大学の西山朋さんに紹介してもらいます。

第9回 回旋動作での力発揮
~投げるためのビルドアップトレーニング~

ボールを投げる動作やサーブを打つことは、下肢から生まれた力を体幹から肩、肘、手首、そして指先へと伝えていく動きで、カラダをねじる、回旋動作が必要となります。今回のトレーニングでは、ポイントとなる“ねじる”動作のために、まず胸郭と肩甲骨の可動性と筋力を高め、次に下肢から上肢へ力を伝える複合的なねじる動作を修得します。回旋動作の質を高めることを目的にトレーニングしていきましょう。

【投げるためのビルドアップトレーニング】
競技場面でのトレーニング効果の一例

☑野球、ハンドボールなど投球向上
☑テニス、バレーボールなどのサーブ動作
☑クロスモーションの動きを高める
☑投擲競技の競技力向上
☑格闘技での投げ技
☑肩や肘の障害予防

MENU01
ランバーロック ソラシックローテーション
[回数目安:左右15回 やりにくいほうは+5回]

肘と膝を床につけた四つ這い姿勢から片手を頭に回した状態がスタートポジション。肘を床につけることにより、固定されている面が広がり、そのぶん胸郭まわりを動かさなければいけなくなります。この姿勢から中心線がズレないように肘を上げていきます。カラダが動いてもスタートポジションの荷重を変えないことが大事です。

ありがちなNG例
■三点支持が崩れる
■背中が丸まる

NG例としてありがちなのは、肘を上げていくときに三点支持が崩れること。スタートポジションの姿勢を維持できず、三点支持が崩れると、他の動きで代償してしまい、胸郭の動きが出にくくなってしまいます。また、背中が丸まってしまうのも胸郭の動きが出にくくなるのでNGです。

バリエーション
手を腰に置く

手を頭に置いているときは、比較的胸椎の上部が動きやすくなります。手を置く位置を腰に変えて行うと、胸椎の下部が動きやすくなります。手を置く位置を変えることで、胸椎の動かす位置のウエイトを少し変化させます。

ポイント

ランバーロックとは腰椎を固定するという意味で、ソラシックとは胸を意味します。カラダをねじる回旋動作には胸椎、胸郭の可動性はとても重要です。腰椎を固定して行うことで、上半身だけでねじり、胸郭を開き可動性を高めることが、このトレーニングの目的となります。

 

MENU02
ショルダーローテーション
[回数目安:左右20回]

両手が一直線になるように水平に広げます。このとき、手のひらは左右で上下反対方向に向けておきます。この姿勢から上を向いている手のひらは下に、下を向いている手のひらは上にねじっていきます。手のひらを動かしても肩甲骨が上がったり、肘が曲がったりせず、腕の高さは水平を保つようにしましょう。

ポイント 目一杯ねじる

手の動きをアップで紹介します。写真のように肩の高さは変えずにゆっくり目一杯ねじっていきます。ローテーターカフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋といった肩のインナーマッスルの総称)の可動性と筋力を高めていきます。

 

レベルアップ! 肩甲骨を使う

腕を水平に保ったままの動作に慣れたら、少し肘を曲げて肩甲骨を使って行うようにしましょう。腕を一直線に伸ばした状態のときは、肩甲骨は動いていません。次のステップとして肘を曲げて肩甲骨をしならせる状態にして行うことで、実際の投球動作に近い動きとなります。カラダが連動して動くようにしていきましょう。

ポイント

過去に肩甲骨のトレーニングを紹介しました(※)そのときは肩だけに特化したメニューでしたが、今回はより実際のスポーツの場面に近づけることがポイントです。スローイング動作に必要な内旋、外旋の動作を1種目で行うことができます。また、肩は不安定な構造をしているがゆえに、その分インナーマッスルの働きが重要です。このトレーニングでインナーマッスルを鍛えましょう。

※詳しくは「ポテンシャルを引き出すパフォーマンスアップのためのトレーニング 第3回」参照

MENU03
ローテーショナルスクワット
[回数目安:左右各10回~]

通常のスクワットにねじりを入れて、元に戻す動作になります。両足に均等に体重をかけておいて、軸足になるほうの脚の付け根の前面にシワを寄せイメージで股関節をねじ込みます。このとき、お尻でねじりを受け止めるイメージです。ゴムが引っ張られて戻るように、ローディングとアンローディングを繰り返します。左右で得手不得手があると思うので、交互に行うよりも同じ方向を連続10回続けて、左右どちらもうまく動作ができるようにしていきましょう。

ありがちなNG例
■カラダが流れる
■膝が内側に入る
■つま先が外を向く

よくあるNGとしては、ねじ込んだ際にカラダが流れてしまうこと。しっかり股関節で受け止めなければ、戻すときに長軸方向へ力を発揮できません。また、膝が内側に入らないように注意。足首と股関節の間にしっかり膝が収まるようにしないと、力の伝達効率が落ちてしまい、ケガにもつながりやすくなります。そしてつま先が外を向いてカラダが開くと股関節をねじ込むことができません。

バリエーション! ホップしてストップ

実際の投球動作の動きにより近づけるため、ねじって片脚に体重をかけたところで止めて、小さく跳びはね、反対の足で着地します。ためた力を開放するときに上にいきすぎたり、前にいきすぎたりせず、地面に力をかけた方向に対して力を発揮しましょう。

ポイント

MENU01では、投球動作、回旋動作に不可欠な胸郭、胸椎の可動性をつくっていきます。続くMENU02では、肩の関節、上腕骨を肩甲骨に引きつける、ローテーターカフの可動性と筋力を高めていきます。そしてMENU03では、投げる力につながる下肢の筋力強化と下肢からの力を上肢に伝えるための複合的なねじりの動作になります。

トレーナーからのアドバイス

カラダをねじる動作は野球、ハンドボール、アメリカンフットボール、バスケットボールなど、ボールを投げる競技で不可欠なのはもちろん、テニス、バレーボール、バドミントンなどのオーバーヘッドスポーツでも必要な動きが数多くあります。股関節のねじ込みで発生した力を、胸郭を可動させ、肩甲骨と肩関節を連動することで指先に力を伝えていくプロセスを、今回紹介したトレーニングで身につけていきましょう。次回は「投げる」と同じねじる動作から、足での出力となる「蹴る」につながるトレーニングを紹介します。

西山 朋 さん
帝京平成大学健康医療スポーツ学部助教。これまで東京ヤクルトスワローズのアスレティックトレーナー、男子ソフトボール日本代表、7 人制ラグビー日本代表、オール三菱ライオンズなどのトレーナーを歴任。

前回の記事はこちら
ポテンシャルを引き出す パフォーマンスアップのためのトレーニング
⑧横方向への力発揮 ~横に動くためのビルドアップトレーニング~

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