スポーツ栄養を学ぶ大切さと重要性
好きな物を好きなだけ食べる食生活は、体重・体組成の大幅な変動、パフォーマンスの低下やケガの要因にもなります。スポーツ栄養とは、アスリートのパフォーマンス向上、コンディションの維持を目的とした食事術。スポーツ栄養を知ると、目指す体組成やプレースタイル、年間のピリオダイゼーションなどから、そのときの自分にあった食品や調理方法を選べるようになります。結果、日々の練習はもちろん、試合で100%の力を発揮することにつながります。
スポーツ栄養を考えるときの3つの柱
スポーツ栄養では、「量(どれだけ)」「質(何を/どのように)」「タイミング(いつ)」の3本柱を軸に、食事内容を考えることが重要。3つの柱を理解するとこで、カラダへの負担が少なく、かつ効率の良い食事が実践できます。トライ&エラーを繰り返しながら、そのときの自分のカラダやコンディションにあった食品や調理方法、そして食べるタイミングを選択できるようになりましょう。
量
食事から摂るエネルギー量は、その日の活動量に応じてコントロール。特にエネルギー源となる炭水化物、たんぱく質、脂質を、運動量や運動強度、カラダづくりの方向性、トレーニング内容などを加味しながら、「今の自分」に適した量を摂ります。食事の量が足りないと体重や持久力、パワーの低下に、食べ過ぎは体重・体脂肪の増加につながるので注意。
質
栄養が偏らないよう、5大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)をできるだけ揃えます。また、調理法(揚げる、炒める、焼く、茹でるなど)の選び方も大切。消化・吸収は調理法にも関わるため、その日のコンディションや練習・トレーニング量、カラダづくりの目標(増量か減量か、体脂肪率の目標)にあう食べ方を選びます。
タイミング
例えば、たんぱく質は1日の必要量を3食均等に食べると筋肉の合成率が高まる、筋肉の回復を促すために練習後はなるべく早めに炭水化物を摂る、運動後は内臓が疲労しているため脂質の多いものは避けるなど、摂取のタイミングも重要です。また、食事の時間が不規則にならないよう、日々のスケジュール管理能力も求められます。
アスリートの基本の食事
「バランスのよい食事」とは、エネルギー量が適正で必要な栄養素が含まれている食事のこと。「主食・主菜・副菜・汁物・果物・乳製品」の揃った食事を心がけることで、カラダに必要な量と栄養素が整いやすくなります。
主食
ご飯、パン、麺などの穀物。炭水化物が主となる栄養素で、脳やカラダのエネルギー源になるほか、筋力アップにも不可欠。パン食の場合は甘い菓子パンではなく、食パン、ロールパン、フランスパンなどを選びたい。
主菜
肉類、魚介類、卵のメインとなるおかず。主な栄養素はたんぱく質とビタミンB 群。血液に必要な鉄分も摂れる。ただし揚げ物や脂質の多い部位は食べる頻度を控え、脂質量過多にならないよう心がけよう。
副菜
野菜のおかず。ビタミンA( β カロテン)やビタミンC をはじめ多種類のビタミン、食物繊維、抗酸化成分が摂れる。野菜のほか、キノコ類や海藻類、大豆製品も副菜に。
汁物
発汗により失われる水分やミネラルを補給できる。味噌汁やスープに、野菜、キノコ類、海藻類、豆腐などを入れると、副菜を兼ねた一品にもなり、一石二鳥。インスタントを選ぶときも具沢山のタイプを選ぼう。
牛乳・乳製品
たんぱく質とカルシウムが豊富な牛乳・乳製品は、食事や補食で最低1日1回は摂ろう。カルシウムは日本人が不足しやすい栄養素の一つ。骨を強くする以外に、筋肉の収縮にも関わるので積極的に摂りたい。
果物
炭水化物が豊富なエネルギー源。また、ビタミン類、食物繊維、抗酸化物質も豊富で疲労回復やコンディショニングにも役立つ。手ごろな価格のバナナや旬の果物を1日1回を目安に食事や補食で摂ろう。毎食でなければ、100%ジュースでもよい。
学生アスリートと一般の学生との違いは?
■エネルギー必要量が段違いに多い
学生アスリートと一般の学生とでは、1日に必要とするエネルギー量に大きな差があります。高強度の運動で消費するエネルギーだけでなく、筋肉量が多いため基礎代謝が高く、日常生活で消費されるエネルギー量も一般の学生よりも増加します。だからこそまず「量」を確保し、必要なエネルギーと栄養素が不足しないようにしなければなりません。
スポーツ栄養のすすめ
身につけたい食習慣とは?
▶STEP❶:3食をきちんと食べる
●炭水化物源となる主食は、毎食必ず食べる
●1日に必要なたんぱく質量は3食に配分して摂る
●朝食を欠食しないよう、毎日規則正しい生活サイクルを続ける
▶STEP❷:補食を味方にする
●食事で摂りきれないエネルギー量は補食でカバーする
●たんぱく質の補食は低脂質の食品を選択する
●お菓子類ではなくエネルギーや栄養補給ができるものを食べる
▶STEP❸:食品選びをルール化する
●朝は卵、昼は肉、夜は魚など、主菜は毎食、異なる食品を選ぶ
●外食や学食では、自炊では食べない料理や食品を選ぶ
●大豆製品は主菜の肉や魚とは別に副菜や汁物で摂る
あなたはどっち派?習慣化のための実践テク
学生アスリートが身につけたい食習慣、“ 1日3食”と“補食”、そして効果的な“食品選び”を実践するためのテクニックを紹介。いくつかのパターンからふだんの食生活に落とし込むことで、無理なく継続できます。
パン派
パンに卵、チーズ、ハム、納豆などをのせて、主食と主菜をセットで摂ります。朝、特に摂りにくい副菜は、包丁要らずで食べられるプチトマトやかいわれ大根を添えたり、即席スープに冷凍野菜(野菜ミックス、ほうれん草、ブロッコリー)をちょい足しして摂ります。それでも難しい場合は野菜ジュースでもOK。
ご飯派
納豆卵かけご飯にして主食+主菜を一品で摂ると手間が省けます。ちりめんじゃこや桜えび、ごまなどをトッピングしてもOK。これに具沢山味噌汁を用意。味噌汁は前日の夕食で多めに作っておくとよいでしょう。インスタントの場合、豚汁や乾燥野菜がたっぷり入ったものを選ぶ。 冷凍野菜(野菜ミックス、ほうれん草、ブロッコリー)を具材に追加するのもヨシ。
コンビニ派
カップラーメンを食べる場合、サラダチキン、焼き鳥、豆腐バーなど低脂質のたんぱく質をあわせます。これだけではエネルギー量が足りないので、鮭やたらこなど魚介類のおにぎりを追加しましょう。他、予算があれば学食同様、野菜の副菜をプラス。おにぎりや野菜(冷凍ブロッコリーとプチトマトなど)、ゆで卵な
ど持参すると食費を節約できます。
学食派
学食では主食・主菜・副菜が揃った献立を選びましょう。定食スタイルは勿論、丼ものや麺類にサラダなどの副菜を1品プラスするのでもOK。また、朝夕自炊の場合は緑黄色野菜や根菜類が不足しがちなのできんぴらごぼう、ほうれん草の煮びたし、ひじきなど、チョイスできると◎。腹持ちのよい揚げ物も食べるならば昼食で。日中活動量が多いので夕食までにカロリーも消費できます。
自炊派
ご飯と肉や魚介類の主菜を用意。主菜は出来合いの物を買ってくるとひと手間省ける。これに緑黄色野菜(小松菜、ほうれん草、にんじん、ブロッコリー、刻みおくら、アスパラガスなど)を入れた汁物や温野菜サラダを合わせます。スープは時間のある日に作り置きを。豆腐やミックスビーンズなどの大豆製品、卵などを加えても◎。
外食派
基本は定食。主菜は焼き魚や煮物など、自炊では難しいメニューを選びたい。特に夕食の時間が遅くなる場合、消化に時間のかかる油の多い食事は避けましょう。牛丼やカレーライスの場合、野菜の副菜や豚汁のような具沢山の汁物もオーダー。野菜は可能であればほうれん草やブロッコリー、小松菜、にんじんなど緑黄色野菜が摂れるものを選びます。
朝練前に朝食が食べられない…
例えばバナナとヨーグルト、シリアルと牛乳など。それも難しい人は100%オレンジジュースだけでもOK。空腹での練習は避けたいため、無理はせず、何か一つ、炭水化物だけでもお腹に入れましょう。朝練後に、主食・主菜・副菜が揃った朝食をしっかり食べます。
夕方遅くから部活がある場合の補食は?
昼食から3時間以上開く場合、練習の1時間前までにおにぎりやバナナなどエネルギー源となる補食を摂ります。練習後もすぐに夕飯が食べられない場合、炭水化物の補食を。プラスでたんぱく質が摂れると筋グリコーゲンの回復率が高まります。
夜食が食べたいけど
就寝前に小腹が空く場合、ヨーグルトや牛乳など消化のよい乳製品でたんぱく質を摂るとよいでしょう。体重が落ちやすい人や増量が必要な人は炭水化物をプラス。卵かけご飯なら炭水化物とたんぱく質が一緒に摂れて おすすめです。
1日を振り返る食事チェックシート
日々の食事を簡単に振り返れるチェックシートをつくりました。練習ノートなどに貼り、1日の終わりにチェックしましょう。
アトランタ五輪を目指す競泳選手への食事アドバイスをきっかけにスポーツ栄養士へ。現在はジュニアからトップアスリートまで、さまざまなスポーツの栄養サポートに携わる。ロンドンでは競泳、男子柔道の日本代表チームの栄養サポートを担当。
※2024年4月15日発行「アスリート・ビジョン#33」掲載/この記事は取材時点での情報です。