水分補給のメカニズムを知ることで、最高のパフォーマンスをつかむ【水分補給のプロに聞いた】

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体重の約60%を占める水分(体液)は、体温調節や栄養素と酸素の運搬、老廃物の排泄、カラダの様々な機能の維持などを担っています。アスリートにとって、水分補給の重要性とその効果、運動時の上手な取り方について、運動生理学が専門の寄本明さんに伺いました。

カラダはこんなに水分を必要としている!

人のカラダは、空調の効いた快適な環境においても、1日約2.5L の水分を失っています。運動時や気温が高い環境では、さらに多くの水分が失われます。アスリートの場合、夏の練習日1日に失う水分量は7~8L にもなります(図参照)。

水分だけでなくナトリウム(塩分)、カリウム、カルシウム、鉄分などの電解質が同時に出ていくため一般の人よりも意識して、これらの栄養素を、食事からも摂取しなければなりません。

運動時は自発的脱水に注意

多量に汗をかいた時に水を飲んでもカラダの水分( 体液) が十分に回復しない状態自発的脱水といいます。体液の濃度を一定に保とうとするカラダの働きにより、過剰な水が尿として排出されたり、運動能力が低下して体温が上昇したりします。水だけを飲み続けると脱水を加速し逆効果になるので注意が必要です。

水分補給はパフォーマンスに直結する!

体重の1%が脱水してのどが渇くといった症状が現れ、2%の脱水で無酸素や有酸素能力のパフォーマンス低下が始まり、体液濃度のバランスが崩れます。3%以上の脱水では熱中症や生命の危険も。また、同じ練習をしていても、脱水状態では体温や心拍数が上昇し、カラダへの負荷が高まり、疲れも感じやすくなります。練習効果を最大化するためにも、運動強度と暑さ指数(WBGT)※を考慮して、水分補給をコントロールしていくことが大切です。

※暑さ指数(WBGT):人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標。
環境庁「熱中症予防情報サイト」などで調べることができる

ポイントを押さえて効果的に水分補給!

運動時の水分補給は「どのくらい飲むか」だけでなく、「何をどのタイミングで飲むか」がポイント。水分と一緒に失われる塩分(ナトリウム)を素早く吸収できるハイポトニック飲料は、発汗時の水分補給に適しています。市販のスポーツドリンクは糖質が含まれているため、エネルギーの回復にも役立ちます。運動前後、運動中などこれらを飲み分けて効果的に水分補給を。

水分補給のポイント

①発汗による体重減少の70~80%の補給を目標。気温の高い時には15~20分ごとに飲水休憩をとることで、体温の上昇を抑えられる

1回200~250ml の水分を1時間に2~4回に分けて補給する

水の温度は5~15℃が望ましい

体重減少が2%を超える場合は、必ず食塩水(スポーツ飲料)を摂取する

⑤食塩(0.1~0.2%)と糖分を含んだものが有効。運動量が多いほど糖分を増やして、エネルギーを補給する。とくに1時間以上の運動をする場合には、4~8%程度の糖分を含んだものが疲労の予防に役立つ。ただし、8%以上の甘い飲料では胃に溜まるので注意が必要

寄本明さん
滋賀県立大学名誉教授。一般社団法人Save Our Kids 特別顧問。運動生理学、環境生理学、健康科学、スポーツ科学を専門とし、著書や講演・セミナー登壇も多数。主要テーマに「高温環境下における体温調節と水分・塩分出納(熱中症予防)の研究」などがある。

※2022年7月15日発行「アスリート・ビジョン#26」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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