試合が立て続けに行われる時期は、できるだけ疲労を蓄積させず、翌日にはカラダをフレッシュにしておきたいもの。だからこそ取り組みたいのが、“睡眠環境改善” だ。アスリートだからこそ知っておきたい、質の高い睡眠を得るための環境づくりを、日本ベッド製造株式会社で快眠マイスターとして活躍されている林周作さんが解説します。
コンディショニングとして取り組みたい寝床づくり
良い睡眠が得られる3条件
寝ようとすればするほど眠れなくなる。「寝る」を課題にしてしまうと、それ自体がストレスとなり、 交感神経が活発になり、入眠を阻害するからだ。自然と眠くなる環境を作ることが大事になる。
1暗くする
眠る1時間前くらいから、部屋を薄暗くしておくと自然と入眠できる。夜は蛍光灯やLEDの白い光より、柔らかい間接照明に切り替えると効果的。
2静かにする
大きな音は人にストレスを与えるので、就寝時にテレビやラジオなどはできるだけ消しておこう。少しの音楽があったほうが良いという場合は、音量は小さめに。入眠後オフになるよう、タイマーなどを活用すると良い。
3不快な臭いをなくす
生理的にイヤな臭いはストレスになることが分かっている。基本的には寝室を消臭することが一番だが、人によっては、自分の好きな香りを用意することで、リラックスでき、スムーズな入眠の助けになることもある。
今すぐできる睡眠環境改善法
バスタオルを使って寝具を補正
敷寝具で最も劣化してくるのは腰(お尻)の辺り。へこんだり、弾力がなくなったりした部分に大判のバスタオル、またはタオルケットを巻きつけるように固定。寝転がったときに腰が沈まないように、タオルの厚みを調整すると寝心地が格段に改善。
敷き寝具のローテーション
ホテルではベッド用スプリングマットレスを3 カ月に一度、前後と表裏を順番に入れ替えて、1 年で一周させている。マットレスのへたりが一部に集中しないようにするためだ。敷き布団やウレタンマットレスなど一般家庭でも、寝具は定期的に、前後、表裏をローテーションしたい。
季節によってシーツや布団カバーを変える
たとえば夏は麻などのさらさらしたもの、冬は毛足が長くて空気を含む、柔らかいものにするなど、季節に合わせて肌触りを変えることで、寝心地もよくなる。
枕をタオルに変えてみる
枕の高さが合わないなら、いっそのことタオルに変えてみる。タオルを四つ折りにしてから、首の所 を少し高く折り曲げて高さを出す。あとは自分の寝心地に合わせて微調整すれば良い。
枕の高さは目線の位置で決める
ポイントは目線の位置。理想は、あおむけで寝た時に真上が見えるのではなく、少し下が見える角度。立位の状態で肩の高さに腕を前に伸ばし、目線を下げず、アゴを引くようにして指先を見てみよう。この頭の位置、目線の位置が、寝たときに最適な睡眠を得られる頭の角度だ。首肩の緊張がなくなり、鼻呼吸がラクにできる。この角度、位置になるように、枕の後頭部と頸部の高さのバランスを調整する。
朝の光で夜の眠りの質を高める
光を浴びるとセロトニンが出て、活動のスイッチが入る。そのセロトニンが、夜に眠りを促すホルモン、メラトニンになる。つまり、朝にセロトニンを出しておかないと、メラトニンが不足して入眠が悪くなるのだ。朝にしっかりと光を浴びて、セロトニンを出すことがポイント。良い睡眠は、朝から始まっているのだ。
清潔にする
ホコリは床から30cm のところにひと晩中滞留するといわれる。そこで寝具周りの掃除だ。マットレスを使用しているなら、床から30cm の高さを確保しよう。清潔が睡眠の質を高める。
より質の高い眠りを得るための寝具選び
ポイントは寝返りと触感
横から見て全身がラクに伸ばせていること、腰が落ちず、反らず、自然な角度になっていることが第一ポイント。それに加えて、寝返りがしやすいことも選ぶポイントになる。人が寝返りを打つのは、カラダを快適な状態にしようとするため。寝返りが打てないと、不快な状態のまま、カラダが休まらない。まずはあおむけで寝具に寝転がって、左右に寝返りを打ってみよう。寝返りがしやすい寝具が最適の選択になる。もうひとつのポイントが触感だ。ストレス軽減にとっても大切なことで、触ったとき、寝転がったとき、ホッとするもの、自分の肌触り、手触りが心地よいと感じるものを選ぶと良い(林さん)。
上級快眠マイスター、睡眠健康指導士
林 周作さん
監修:日本ベッド製造株式会社
1926年、日本初のベッドメーカーとして誕生。創業時から機械の開発、技術・ノウハウの習得、販売までを手がけてきた。迎賓館、宮内庁各施設や並み居る一流ホテルにも選ばれてきた高い品質を誇る。創業95 年を迎え、今もなお「SLEEP QUALIA」をコンセプトに、質の高い眠りを求めて開発を続けている。
https://www.nihonbed.com
CLUMUN: 睡眠が筋肉を修復し、カラダの調子を整える
早稲田大学准教授・西多昌規先生よりアドバイス
睡眠が足りていないとパフォーマンスを向上させたり、発揮したりできないだけではなく、注意力が散漫となって故障を引き起こすキッカケになりかねません。睡眠はカラダのデフラグだと思ってください。昼のトレーニングで十分な効果を得られるのは、睡眠が筋肉を修復したり、カラダの調子を整えたりしてくれるからです。睡眠とトレーニング。どちらが欠けてもパフォーマンスは上がらない。だからこそ、アスリートにとってはトレーニングと同じレベルで睡眠を大事にしてもらいたいのです。
西多昌規先生 早稲田大学准教授
精神科医(医学博士)、睡眠医療専門医として豊富な研究実績を誇る。ハーバード大学医学部、スタンフォード大学医学部にも留学。2017年より早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授をつとめる。
※2021年4月15日発行「アスリート・ビジョン#21」掲載/この記事は取材時点での情報です。