筑波大学・今泉堅貴選手 強くなるために何が必要か、 足りないものを洗い出し、 徹底的に取り組む【陸上】

小学生の頃から足が速く、中学の林間学校で陸上部の先生にスカウトされ、その道に進んだ今泉選手。コロナ禍真っ只中に筑波大学へ入学。怪我を繰り返し、結果も出せず、つらい時期を過ごしましたが、2年生の冬の取組みをきっかけに、選手像や部の在り方が変化したという。部員の多くが自己ベスト更新と確実に成長している。「強くなったと実感し、喜びを感じるからこそ、陸上を続けられる」と話す今泉選手の強さはどこにあるのか、お話を伺いました。

今泉堅貴選手のプロフィール

筑波大学 陸上競技部 今泉堅貴

いまいずみ・けんき 2001年9月26日福岡県生まれ。中学から陸上を始める。福岡大学附属大濠高校時代に400mに転向。自己ベストは今年6月の日本選手権で記録した45秒54。7月のアジア選手権では混合4×400mリレーで銅メダル。筑波大学陸上競技部のキャプテン、短距離障害ブロック長を務める。

『1番になってから辞めたい』と
引退を撤回し、大学でも陸上部に

陸上をはじめたきっかけ

―まずは陸上を始めた時期ときっかけを教えてください。
「最初はサッカーをやっていました。小学生の頃から足は速かったですね。中学1年の4月に参加した林間学校で友人たちと鬼ごっこをしている姿を見た陸上部の顧問の先生から『あなたたちいい走りをしているから陸上しなさい』と声をかけられて。最初は長距離をやりたいと思っていたんですが、100mのタイムを計ったら1年生の中で2番目のタイムで大会に出場することに。初出場した県大会で5位に入ったことで、完全に短距離に転向して。ただ、100、200mではなかなか県で1番になれず、高校からは400mに専念したんです」

―陸上を続ける中でターニングポイントとなった試合や敗戦、勝利はありましたか。
「実は当初、大学でも陸上を続けることは考えていなかったんですが、高校2年の秋に出場したU18日本選手権で、最後に抜かれ、100分の1秒差で2位なったんです。それがすごく悔しくて『1番になってから辞めたい』と考え始めるようになり、『大学でもやるか』と思うようになったんです」

―筑波大学に進学した理由は。
「高校の先輩から勉強しながらも競技に打ち込めると聞いて、筑波大学への進学を決断しました。自分が入学した年はちょうど新型コロナウイルスが流行した真っ只中で、対面の制限もあり、先輩たちとのコミュニケーションの機会もあまりなく、なかなか筑波大学の良さを感じられていませんでした。しかも、高校までは自分で練習メニューを考えることがなかったので、大学に入学し、自分で考えて作るというスタイルに変わり、2年生の途中までは本当に苦労しました」

2年生の冬、練習メニュー作りが
自己ベスト更新のきっかけに

自己分析と自己研鑽を重ねた日々

―自己ベストを更新したのは3年生になってからでしたが、それは何が要因だったと、自分自身では分析されますか?
「それまでは先輩方や先生が作ってくださったメニューを練習で消化するようなことが多かったんですが、結果的には怪我もとても多かったですし、当時はあまり自分のことを分からずに練習をしていましたね。だからこそ、記録的にもくすぶっていたのかなと。筑波大学には2年生部員が主体となって冬季の練習を作成する伝統があるのですが、僕を含めて5人が短長ブロックの練習メニューを作ることになったんです。今の自分たちはどこが弱くて、それを補うためには何が必要なのかを洗い出し、論文や文献などを読み、先輩方が残してくれた実験結果を分析しながら、メニューを作成しました。その過程で必要だと思うことを徹底的に押さえて、自分自身を理解しながら練習が自然とできるようになっていた。そういった日々の積み重ねが、3年生で更新した自己ベストへとつながったんだと思うんです」

―ダルビッシュ有選手の言葉にも大きな影響を受けたそうですね。
「ダルビッシュさんが以前、SNS で『努力は嘘をつかないって言葉があるけど、頭を使って練習しないと普通に嘘をつくよ』と投稿していたんです。ちょうどメニュー作りのタイミングでこの言葉を目の当たりにして、考えることを意識するようになりました。この言葉をきっかけに、試合から逆算して今必要なものを考えるようになりましたし、日々の練習にも確固たる意図を持って臨むようになった。あの言葉は自分にとってすごく大きな変化をもたらしてくれましたね」

肉離れしやすい体質なので
ハムストリングのケアは念入りに

今泉選手のカラダづくり

―プレー以外で大切にされていることはありますか。食事面やコンディション調整など。
「アスリートにとって最低限必要な栄養バランスは意識しているつもりです。たとえば、炭水化物、たんぱく質、乳製品、果物は摂るなど。自宅の冷蔵庫には米と鶏むね肉とブロッコリー、トマト、納豆。ヨーグルト、オレンジジュースは常備しています。そういったものをベースにして、あとは食べたいものを食べる。得意料理は鶏むね肉のガーリックバターステーキです(笑)。プロテインなども摂取していますが、トレーニング後にいかに早く栄養を摂取できるかが大切だと考えているので、その点も心がけています」

―リカバリーやコンディション管理で注意していることはありますか。
「僕は肉離れしやすい体質なので、ハムストリングスのケアには人一倍気を使っています。お風呂上りに足に電気毛布を巻いて温めたり、マッサージガンで凝っている箇所を集中的にほぐしたり。疲労が重なると怪我のリスクも高くなるので、そこは都度、解消するように。睡眠は1日9時間とるようにしています」

今泉選手のある一日のスケジュール

大学での目標と同世代アスリートへメッセージ

―今後の目標を教えてください。
「自分の状況に応じて、都度アップデートされていくんですが、直近の目標は全日本インカレで男女総合アベック優勝です。個人的には、高野進さんが持つ日本記録44秒78を越えたい。それが実現できるよう継続的にトレーニングを積みたいと思います」

―最後に同世代のアスリートへメッセージをお願いします。
「自分もそうでしたが、大学生アスリートは高校時代とのギャップに苦しみ、何のために自分は競技を続けているのか、とネガティブな感情に陥りやすい。そんな中でも、今、何をしたいのか、どう成長していくのかは、自分自身だけではなく他の人から学ぶことで変わっていける部分もあると思います。だからこそ腐らずに取り組んでほしい。僕自身は、競技を通して人間的に成長できた大学生活でした。競技の結果だけに捉われない、大学で競技を続けるからこそ得られるものを大切にして、競技に打ち込んで欲しいですね」

※「アスリート・ビジョン#31」掲載/この記事は取材を行った2023年7月時点での情報です

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