動ける強いカラダとは?競技パフォーマンスを高めるトレーニング【NSCAジャパン監修】

競技パフォーマンスを高めるには、カラダづくりは必須。しかし、「何からはじめたらいいのか」と悩みを抱える学生アスリートも少なくはありません。今回は「動ける強いカラダ」をつくるための戦略的なトレーニングについて、ストレングス&コンディショニングコーチの吉田直人さんに教えてもらいました。

学生アスリートにとって「動ける強いカラダ」とは?

「動ける強いカラダ」は、自分の思う通りに「動けるカラダ」ケガをしにくい「強いカラダ」の二軸で考えます。「動けるカラダ」をつくるためには、筋力だけでなく競技パフォーマンスに関連する要素を総合的に鍛える必要があります。また、「強いカラダ」をつくるうえでも、筋力は重要です。筋力は筋の横断面積( 筋肉量)と正の相関があります。そのため、筋肉量(除脂肪)が多いと基礎代謝がアップし、血流もよくなり回復力が高くなります。そのほか、筋肉以外の骨・じん帯・腱の強さも、「強いカラダ」を構成する要素となります。

柔軟性と可動性の違い

「柔軟性」とは、筋を伸ばす能力のこと、対して「可動性」とは、筋と関節が含まれる運動の自由度のことを指します。これらは似たような意味で使われがちですが、明確に違いがあります。柔軟性を高めるのにストレッチは有効ですが、可動性をつくるには不十分です。
可動性は筋だけでなく「関節の可動域」がかかわるため、それを獲得するためのエクササイズが別に必要になるのです。柔軟性と可動性は、「動ける強いカラダ」をつくるうえで両方とも必要なので、両方を高めるエクササイズを行っていきましょう。

筋力はパワーだけにあらず

重たいものを上げたり、強い力を発揮したりするだけが「筋力」ではありません。例えば、繰り返し使い続けても疲れにくく、出力が変わらない「筋持久力」、瞬発的に力を発揮することができる「パワー」など、筋機能に関わるもの全体を指しています。「動ける強いカラダ」をつくるためには、筋力に加えて心肺持久力、バランス、柔軟性、アジリティ能力も重要です。また、競技やポジションに応じた身体組成が土台にあると、さらに各能力が発揮しやすくなります。

パフォーマンスピラミッドを意識したカラダづくりのススメ

戦略的にトレーニングをする中で、「パフォーマンスピラミッド」の考え方を理解しておくことは大事です。「動ける強いカラダ」をめざすなら、この冬はまさに土台となる「ムーブメント(機能的動作)」を高めることに注力してほしい。シーズンに入ると、スキルやパフォーマンスのトレーニングが主軸になり、ムーブメントは減少する傾向にあるため、ムーブメントを鍛え直すにはこの時期が最適なのです。

スポーツにおけるパフォーマンス向上の考え方。パフォーマンスピラミッドのバランスを安定させることで技術練習の質の向上やケガ予防にもつなげていくことができます。

ムーブメントで取り入れたいエクササイズ3選

1.Movement Preparation

ウォーミングアップの一環で、反動を使って行うエクササイズです。動きの中で筋を伸ばしたり、動きの滑らかさをチェックしたりすることで、静的なストレッチでは得られない、可動性や安定性、筋や関節同士の連動性などにアプローチできます。

90/90 ヒップモビリティ

両足を開いて膝を90度曲げた状態で座ります。膝の角度を変えずに横を向き、上体を前に倒します。股関節の柔軟性向上とお尻のストレッチを兼ねたエクササイズです。

2.活性化エクササイズ

体幹を中心に、コア部分の筋や関節にアプローチするエクササイズ。ウエイトトレーニングでは鍛えづらいインナーマッスルや小さな筋肉に刺激を入れることで、 可動性や安定性を高めることができます。目新しい種目ではありませんが、刺激が入る筋肉を意識できているか、筋肉はきちんと反応しているかなどをチェックして行いましょう。

ベアクロール

体幹と肩甲骨の安定性を高めるエクササイズ。四つん這いになり、膝を床につかないように右手と左足、左手と右足を交互に前方へ出す。

3.バランス系エクササイズ

片足で立つ、ボールを使うなど不安定な状態をつくり、カラダを機能的に動かせるようにするエクササイズ。膝とつま先の向きをそろえるなど、適切なやり方で行うことでケガの予防にもなります。エクササイズの種目を行ったことのある人も、改めて「ムーブメントを高める」意識をもって行うと効果が変わってくるでしょう。

レッグピックアップ

片足で立ち、カラダを前に倒してコーンをタッチ。膝とつま先の向きがブレないように。

継続ポイント:期間を決めてローテンションを組む

ムーブメントのエクササイズは、地道で効果が目に見えづらいものが多いのですが、いかに「継続」できるかで、シーズン中の結果に大きく影響します。股関節が硬く、スクワットで深くしゃがみこむことができなかった選手が、3か月間ムーブメントに取り組み、綺麗にしゃがみこめるようになりました。その後のトレーニング効果は一目瞭然、競技パフォーマンス発揮にもつながりました。例えば、同じ種目ばかりでは飽きてしまう場合は、同じ部位を鍛える種目の中で1か月ごとや3か月ごとに種目を変え、ローテーションで行っていきましょう。
吉田直人さん
CSCS、NSCA-CPT、NSCAジャパンマスターコーチ。育成年代からプロ選手まであらゆる競技のアスリートを指導。ジャパンラグビートップリーグのHonda HEAT で5 年間、ヘッドS&Cコーチとして従事。

※2025年1月15日発行「アスリート・ビジョン#36」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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