長距離の持久力的な能力と短距離の瞬発的な能力が求められる陸上の400mで、高校、大学とトップランナーとして活躍している奥村ユリ選手。彼女はなぜ、短距離の中でも運動強度が高く、過酷だと呼ばれる種目に挑むのか、その魅力は何なのか。陸上界の新星に迫りました
青山学院大学 陸上競技部(短距離ブロック)奥村ユリ選手
2000年2月20日、群馬県生まれ。小学3年生で陸上を始めるも、その後、器械体操へ。中学1年で再び陸上競技を再開した。共愛学園時代は2017高校総体200m、400mで2位。ジュニア選手権200mで優勝。愛媛国体400mで2位。今年6月のアジアジュニア選手権では400mで5位、4× 100mリレーで銀メダル獲得した。
器械体操をしていた小学生時代中学1年で再び陸上へ
―陸上を始めたきっかけを教えてください。
「小さい頃から負けず嫌いで、小学校時代の持久走で優勝したことをきっかけに、親が陸上をやらせ始めた感じですね。器械体操をしていた時もあるのですが、中学1年の途中で再び陸上へ。周りは入学と同時に陸上部に入っていたので、周りと比べると1秒弱くらいは遅かったんです。みんなに追いつくために、部活以外の時間も、家の周りの坂道を何度もダッシュして練習していました」
―高3時はインターハイ200m、400mで2位、U20 選手権で優勝と絶好調でした。
「高校時代は順調に伸びていたと思います。実は400mを本格的に始めたのは高校2年で、それまでは100、200mが中心でたまにマイルリレーで走っていた程度だったんです。その中で少しずつ『400mで上位を狙えるのでは?』ということで練習を始めたら、3年のインターハイで準優勝。さらに練習すれば記録も伸び、結果もついてくると思い、力を入れるようになったんです」
―順調にステップアップしてきたんですね。
「大学に入ったら少し落ちるだろうなと予想はしていました。案の定、400mのタイムは1秒ぐらい落ちていて……。かなり苦戦しています。環境の変化もそうですが、高校と大学とでは練習のやり方や頻度も異なります。大学では授業の空きコマに自分で練習をする機会が増えるので、セルフコントロールが重要です。400m系の練習は自分を追い込むキツイものが多く、妥協しようと思えばいくらでもできてしまうのですが、そういった意味で自分をとことん追い込めていないというか、やり切れてないという感じもあります」
―今はどんなことを課題にして、トレーニングしているのですか。
「今後記録を伸ばしていくためには、400mをしっかりと走り切ることができる持久力が必要になります。先生が考えてくださったメニューをもとに、スピードアップも含めてトレーニングに励んでいます。スピードアップには走るフォームがポイントになります。右足の疲労骨折から治ったばかりで、まだMAXの状態では動けませんが、状態の良い頃のフォームを参考に、改善点は修正していきたいです」
アプリで毎日体調管理バランスよく食べるようにする
―生活環境も変わり、コンディショニングについて考える機会も増えたと思います。短距離に求められるカラダ作りとは?
「無駄な動きをせずに、走りに必要な部分、使う筋肉だけを鍛えることは常に意識しています。レース中にいらない筋肉を使うと、走りも元に戻りにくくなってしまいますし、軸がブレてしまいます」
―食生活はどうされているんですか?
「一人暮らしなので毎日自炊ですね。昨日は鶏胸肉を味付けしたもので野菜炒めを作りました。心がけているのはバランスよく食べること。とくにヨーグルトのような発酵食品を食べています。女子の場合は、大学に入ると体重が大きく変動することもあるので、毎日計測したら、スマートフォンのアプリに集約して体調管理をしています」
―サプリメントなどは活用しますか?
「一人暮らしになってから、サプリメントも飲むようになりました。必須アミノ酸はじめ、グルタミン、亜鉛、カルシウム、マグネシウムなどうまく摂取していたからか、昨年は順調に記録も伸びていましたね。翌日に疲れを残さずにトレーニングにも取り組めるし、回復も早いです。サプリの摂取も体重と同じように記録して管理しています」
先のことは考えすぎず、目の前の1つ1 つを大切に
―本番にピークを持って行くために大会1~2週間前から心がけていることは?
「大会前に限らずですが、毎日7時間睡眠は必須。大会1~2週間前になると最後の追い込みをやりたくなりますが、1週間の短い期間で変わるものではありません。ケガにつながるので、焦って練習をしないように落ち着いて過ごし、オフもしっかりと休むようにしています」
―奥村選手の現在の目標は。
「まずはケガする前の去年ぐらいまでの走りに戻すことが目標です。大会ではチームに貢献できるような走りができたらいいなと思っています」
―さらに、その先の将来の夢は。
「実はあまり考えていないんです。練習を重ねた分だけ速くなって、どんどん記録を縮めていき、その延長で五輪などにも出られれば、結果的に良いと思うんです。まずは目の前の1つ1つを大切にしていきたいです」
※2018年10月5日発行「アスリート・ビジョン#11」掲載/この記事は取材を行った2018年8月時点での情報です