本番にピークを合わせる「テーパリング」の考え方【NSCAジャパン監修】

試合期を迎えるアスリートにとって、最も重要なことは試合当日にいかに最高のパフォーマンスを発揮するか。「ベストな状態で本番を迎えられなかった」という悔しい経験をしたことのある人こそ知っておきたいのが「テーパリング」です。今回はテーパリングの考え方とその具体的なやり方について、 ストレングス&コンディショニングコーチの吉田直人さんに伺いました。

アスリートの疲労と回復の関係

超回復のピークと試合当日のタイミングを合わせる

重要な試合に向けてコンディションを高めるためには、疲労と回復の関係を頭に入れておかなければなりません。トレーニングを行うと、カラダには疲労がたまります。しかし、その疲労が回復に向かう際、それまでのパフォーマンスレベルを超えてくることがあります。これが「超回復」です。試合当日に超回復のピークのタイミングと合わせることができると、いいパフォーマンスを発揮できる確率が高くなります。その一連のプロセスを「ピーキング」といいます。

ピーキングにおけるテーパリングとは?

テーパリングはパフォーマンスを最適化する有効な手法

超回復によるピーキングを成功させるためには、トレーニングによって適度な負荷をかけ、そのあと疲労を抜くためにカラダを休ませる時間が必要です。試合当日に向けて強度と頻度は維持しながらトレーニング量を減らし、蓄積した生理的・心理的疲労を軽くしていくことを「テーパリング」といいます。テーパリングは、パフォーマンスを最適化するための1つの有効な手法です。カラダの回復に伴い、心理的な疲労も回復していくため、テーパリングを行うことで心身ともに元気な状態で試合に臨むことができるでしょう。

テーパリングの種類

テーパリングには大きく、線形テーパリング、指数関数的テーパリング、ステップテーパリングの3種類があります。3種類の中では、指数関数的テーパリングを行う人が多いのですが、同じ指数関数的テーパリングでも、時間をかけてゆっくり行う場合と、急に行う場合でも違いがあります。それぞれタイプが分かれるため、自分に合ったテーパリングのペースを見極めることが大切です。

1.線形テーパリング

テーパリングの期間中、毎日一定量ずつトレーニング量を減らしていく方法。

2.指数関数的テーパリング

テーパリング初期に一気に量を減らし、低減ペースを徐々に緩める方法。比較的時間をかけてゆっくり減らしていくケースと、急速に減らすケースがある。

3.ステップテーパリング

テーパリングの期間は常に通常よりも少ない一定量を行う方法。

テーパリングのガイドライン

競技や個々の状態によっても異なりますが、テーパリングに必要な期間は8~14日間が目安です。チームスポーツの場合、試合1週間前になるとテーパリングを意識し、負荷を減らしていくチームが多く見受けられます。最も重要なポイントは、量や頻度は減らしても強度は下げないこと。強度を下げてしまうとパフォーマンスも下がってしまうため、注意が必要です。

継続ポイント:量や頻度を減らしても強度は下げない

①強度:下げない!
②量:41~60%減少させる!(通常の40~59%の量を行う)
③頻度:少し下げてもいいが、下げ過ぎない!
いつもと同じ練習回数でも問題ない。
特に感覚が重要な競技は注意する。

テーパリングの実践モデル(週間スケジュール例)

①リーグ戦(週1回の試合)

試合日から逆算してスケジュールを作成する

試合期間が数週間にわたって続く場合、なるべく体力を維持しながら、疲労を抜いていくことが重要になってきます。チームスポーツではレギュラーメンバーとそれ以外の選手では練習と試合日の負荷が変わるため、負荷が同じ程度になるよう、メンバー外の選手にはプラスアルファでトレーニングを入れることをおすすめします。試合翌日はオフでしっかり疲れをとりましょう。

②トーナメントや一発勝負の競技

試合週のウエイトトレーニングは量を半分に

午前と午後の練習内容を入れ替えたり、午後に練習とトレーニングを合わせて実施するなどの調整はしてもよいでしょう。下半身の疲 労は他の部位にくらべて抜けづらいという特徴があります。そのため、下半身のトレーニングは週の中で試合日からなるべく遠いタイミングに設定しておくのが肝。試合期はテーパリングを意識し、場合によっては土日であってもオフを入れていく必要があるでしょう。

③連戦

連戦に向けてオフ日を調整し、疲れを残さない

ピーキングによって良い状態が保たれるのはおよそ1週間と言われています。あまりに早くピークを合わせてしまうと連戦終盤でパフォーマンスが落ちていくリスクがあるので、休みすぎも禁物。どこにピークを合わせるかはチームや個人ごとに調整しましょう。

練習試合でテーパリングを試すことが不安解消への道      
テーパリングの話をすると、「練習量を減らすなんて不安と言う選手がいますが、大事なのは練習日ではなく試合当日のパフォーマンスを最大化することです。テーパリングに不安がある人はぜひ、練習試合などの機会に試してみてください。自分は何日前からどのくらい減らすと調子がいいのか、あるいは良くないのか。これらがわかるようになると、戦略的にテーパリングを行えるようになると思います。

吉田直人さん
CSCS、NSCA-CPT、NSCAジャパンマスターコーチ。育成年代からプロ選手まであらゆる競技のアスリートを指導。ジャパンラグビートップリーグのHonda HEAT で5 年間、ヘッドS&Cコーチとして従事。

※2024年10月11日発行「アスリート・ビジョン#35」掲載/この記事は取材時点での情報です。

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