2024関東インカレ110mHで優勝を果たした順天堂大学の阿部竜希選手。190cmの大型ハードラーはひたすら真面目に、大好きな陸上競技を追求し、日々の積み重ねを大切にして練習に励む。コンディショニングのポイントは「メンタルのコントロール」と言う伸び盛りの21歳。大学から自炊をはじめ栄養への意識も変わったという。勉強でも陸上でも「面白さ・楽しさを見つけるのが好き」と話す阿部選手の成長の秘密はどこにあるのか、お話を伺いました。
阿部竜希選手のプロフィール
順天堂大学 陸上競技部 阿部竜希
あべ・たつき/2003年8月3日千葉県生まれ。小学生から陸上競技に親しむ。中学2年生で170cmあったことからハードルを勧められ専門的に取り組み、八千代高校時代に全国大会出場。順天堂大学進学後U-20の代表入りを果たし、今期110mHで13秒32の日本学生歴代4位、日本歴代7位の好記録をマークした。
教えるのも陸上と同じくらい好きだから教員の道に進みたかった
陸上競技の「楽しさ」の変化
―まずは陸上を始めたきっかけを教えてください。
「姉が小学校のクラブに入ったのをきっかけに、自分もちょっとやろうかなと思って小学2年生のときから同じクラブに通い始めました。最初は追いかけっこだったり、いろんな姿勢からダッシュしたり。遊びがメインだったので、それが楽しくて通っていた感じです」
―陸上競技として頑張りたいと思ったのは、いつ頃ですか。
「小学6年生のとき、全国大会の4×100mリレーのメンバーに選ばれて出場したときですね。そこから短距離を中心に本格的に陸上を始めました。中学2年生のときに顧問の先生からの勧めもあってハードルを始めました。“やるからには真剣に”と、トップ選手の映像もたくさん見て研究し、自主練習でいろいろ試しました。試行錯誤していくなかで、ハードルの楽しさに気づいて専門的に取り組むようになりました」
―高校は八千代高校に進学しました。
「文武両道が目標の学校でしたし、親からも『学業を疎かにせず、よい成績を持って高校に進学しなさい』と言われていましたから、勉強は苦ではありませんでした。陸上が一番なんですけど、勉強があっての部活という考え方で取り組んでいました。順天堂大学もそういうチームですし、勉強をしていたほうが陸上の調子も良いくらいです」
―順天堂大学進学の決め手は教員になりたかったからだとか。
「もちろん今は競技をやるのが一番楽しいし好きなんですけど、教えることも同じくらい好きなんです。将来は教える仕事をしたいなという思いから、教員になりたいと思っていました。競技もトップレベルで取り組めるし、教員という道も選べるので決めました」
悔しさの後は、必ず良い結果になる
―ターニングポイントはありましたか?
「振り返ると高校時代から、毎年何かしら、自分の考え方を変えてくれるターニングポイントがありました。一番は高校3年生のインターハイで9位だったことです。1000分の1秒差で準決勝敗退でしたが、こんな自分でも決勝の舞台に手が届くまでに成長できているという自信になり、大学日本一につながりました。でもこれだけじゃなくて、U20日本代表になって世界を知り、もっと世界の舞台で走りたいと思って練習してきて。そしてパリ大会に手が届くかも、というところまできたのに、日本選手権ではうまく走れなくて本当に落ち込みました」
―山あり谷ありですね。
「でも、負けた後には必ず良いことがあるんです。思うような結果を出せなかったことが今の自己ベストにつながっていると思うんです。だから日本選手権の敗北も糧に“来年の自分はもっと強くなっているはず”と信じて、今やれることを全力で取り組んでいます」
コンディショニングで最も大切にしているのはメンタルのコントロール
キツいときは、目の前の目標をやる気の源に
―日頃の練習から大事にしていることはありますか。
「ただなんとなく練習をするのではなく、必ず何か一つ、動きでも何でも良いので意識して練習しています。そうすると、1週間で5回練習するとしたら、何も考えないで練習する人よりも1週間で5つ分の差が生まれるわけです。そういう毎日の積み重ねを大切にしています。もう一つが目標を明確にすることです。キツい練習を頑張らないといけないときは、目の前の目標が一番のモチベーションになります。今は来年東京で開催される世界陸上に絶対に出るんだ、という思いで頑張っています」
阿部選手のコンディショニング
―試合に向けた調整が非常に重要だと思いますが、阿部選手がコンディショニングで大事にしていることはありますか。
「一番はメンタルをコントロールすることです。試合だからと気負い過ぎて、力んでうまくいかなかった経験があるので、普段通りの生活を送るように気持ちをコントロールしています。無理に何か特別なことをするのではなく、自然にコンディションを整えることが、今の自分に合ったピーキングだと思っています」
―そのほかに、リカバリーや体調管理において、何か気をつけていることは。
「あと、睡眠は絶対に大事だと思います。寝不足だとケガや故障につながりやすい印象があるので、睡眠時間を8時間は確保するようにしています。あとは、意識して水分補給をしています。また、レース後には疲れをできるだけ早く回復させるためにアミノ酸を摂るようにしています」
―食事はどうしていますか?
「基本は自炊です。親子丼をよく作りますが、脂質を抑えるために鶏胸肉にしています。トマトが好きなのでサラダも欠かせません。『彩りよく食材を揃えると栄養バランスも整いやすい』とトレーナーに教わったので実践しています。大学1年生で自炊するようになり、低脂質高たんぱく質の食事を意識するようになって、2年生になるとそこに知識がついて、3年生でさらにうまくできるようになった、という感じですね」
レベルの高い同世代のみんなと
切磋琢磨して日本のトップで争いたい
―今シーズンに入って、自己記録を何度も更新して一気に世界が見えてきました。成長できた要因は何ですか。
「いろんな人から意見をもらいながら、一つひとつ課題を見つけては練習に取り組むことができたところだと思います」
―今後の目標を聞かせてください。
「まずは13秒0台にまで自己記録を伸ばしたいですね。そして、世界陸上に出場することです。陸上から離れたところで言えば教育実習もあるので、それも楽しみにしています」
―最後に、同世代で頑張るアスリートたちへのメッセージをお願いします。
「自分たちの世代は、とてもレベルの高い世代だと思います。本当にみんながいたから自分も負けずに頑張ろうと思えました。もちろん負ける気はありませんし、これからも切磋琢磨して日本のトップで争っていけたらうれしいです」
※「アスリート・ビジョン#35」掲載/この記事は取材を行った2024年7月時点での情報です